「先輩聞いてください!」


合コンから休みを挟んで二日ぶりの会社、そして二日ぶりの後輩ちゃん。朝からハイテンションできゃぴきゃぴとわたしに話しかけてくる。そして嬉しそうな顔をしながら携帯の画面を見せてきた。そこには


「・・・か、かれし?」


及川徹と後輩ちゃんのツーショット。仲睦まじそうな、二人の距離がとてもとても、近い、そんなプリクラの待ち受けだった。わたしは心臓の奥底がサーっと冷たくなったように感じて、泳ぎ出した目を隠すためにくい、っと眼鏡をあげた。そんなわたしは眼中にないのだろう、幸せそうな顔をして後輩ちゃんは語る。「付き合ってるわけじゃないんですけどね!帰りがけに及川くんのアドレスゲットしたんですよー。二次会に行かないって言われた時は脈ナシだーと思ったんですけど、メールしたら意外にノッて来てくれて!昨日デートしてきたんです!!」・・・そういうアレですか、はい、なるほど。わたしは口角をあげて思い切り愛想笑いで「それは良かったね」と返した。体温がいきなり下がったような、この感覚は一体何なんだろう。わたしの心臓から全身にかけてどんどん冷たくなっていく。そして、徹に対してイライラが募って行く。


(わたしは 彼女じゃ ないんだよね)


彼女じゃないんだけど、彼女じゃないのに。徹とわたしは付き合っているわけじゃないんだけど。徹とわたしは恋人じゃないのに。


その後の仕事をいつも通り淡々とこなし、途中飛ばされる「今日具合でも悪いのか?」という同僚たちの声に丁寧に「いえ、なんでもありません」と答えていつも通りノー残業で社を出る。いつも通りの駅にたどり着いて、いつも通りのホームに立つ。いつも通りの時間に滑り込んできたいつも通りの電車に乗り込んで、いつも通りの場所に立つ。いつも通りの時間に駅に着いて、いつも通り改札を出た。すべてがいつも通りなのに、わたしの心臓だけがいつも通りに稼働してなくって、冷たいくせに動悸は早くて、息苦しい。そうだ、わたしがこうなったのは、今日始まったことではない。わたしがこうなってしまったのは、


「おいかわとおる」


及川徹がわたしの目の前に現れてから、毎日がそうだった。わたしのいつも通りを、徹はみごとに全部壊した。壊したから、わたしがいつも通じゃなくなって、苦しいんだ。及川徹がわたしの目の前に現れたから、わたしは変になってしまった。 わたしはいつも通じゃなくなってしまった。



この体が冷たくなったような、でも動悸は激しいような、これは、紛れもなく嫉妬だ。



まんまと君の作った罠に嵌っちゃったよ、及川徹。
どうやらわたしは、青城高校三年生、及川徹を好きになってしまったらしい。

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テーマ「人外ファンタジー」
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