「探したよ〜」


20分後、公園の入り口に一人の影が見えた。じゃりじゃりと地面を鳴らしてその人物はやってくる。薄暗い街灯しかなく、目が使えないなかでも、その人物が誰かなんてすぐにわかった。「徹」わたしが名前を呼ぶと、「あったりー」と答えた。ブランコから立ち上がる気のないわたしはそのままブランコにゆらゆらと揺られながら、徹が目の前にやってくるのを待つことにした。わたしのすぐ目の前に徹がやって来て、わたしに笑いかける。合コンで見た大学三年生、及川徹と同じ格好をしていて、予想していたことだけど、やっぱり同一人物だったんだな、と思った。徹の楽しげな顔を見上げて、わたしはふぅと短く息を吐く。


「可愛いね、その服」
「・・・徹と買い物行ったときのやつだよ」
「うん、知ってる」


徹は「立って見せてよ」と言ってわたしに手を差し出してきた。ためらいがちにその手を借りて立ち上がると、「うん、良く似合ってる」と嬉しそうに言った。「俺の見立てだもんね」とも。徹はわたしの腕を掴んで、ワルツを踊るときみたいに身を寄せる。徹とわたしの距離がほとんどなくなってしまった。緊張から息を止めてしまう。徹に掴まれた腕が熱くなっていくのが分かる。このままではわたしの全身が浸食されてしまう。


「ハイ!ターン!」


そして徹はワルツを踊る時みたいにわたしの体をくるっと一回転させた。ひらりとワンピースの裾が跳ねる。慌てて手で裾を抑えると、徹は楽しそうに笑う。それから何回もわたしの体をくるくると回転させるものだから、フリルを抑えることをしなくなってしまった。何が面白くて、徹はわたしに絡むんだろう。さっぱりだ。そしてわたしは何を期待して、徹と一緒にいるんだろう。自分の気持ちもさっぱりだ。目が回って疲れてしまい、わたしはもう一度ブランコに腰を下ろした。


「オネーサン体力なさすぎ」
「そんなことない、」
「あるよ〜。オネーサンは面白いね」
「面白くないよ」


わたしの前にいる徹はよく笑う。そりゃ合コンのときも笑っていたけど、その時の笑いとはまた違うような気がした。わたしの隣のブランコに徹も腰をおろして、キコキコと小さくブランコをこいだ。その横顔がどこか切なげで、わたしは目を離せない。


「なんで今日、いたの」
「オネーサンが合コン行くって、聞いたから」
「誰から?」
「内緒」
「ケチ」
「恋人が合コンに行くんだよ、心配になるでしょ」
「・・・恋人?」
「うん」


わたしは本当に徹の恋人なのだろうか。キスはしたけど、それだけだ。好きと言われたこともない、好きと言ったこともない。それ以前にわたしは徹を好きだと思ったこともない。徹から一方的に「付き合っちゃおうか」と言われただけで、そのことに対して同意したことは一度もない。そんなわたしたちは、付き合っていると言えるのだろうか。恋人同士と呼べるのだろうか。わたしは、呼べないと思う。


「それにオネーサン、お洒落してくるし」


徹は何を考えてわたしを探しに来てくれるんだろう。わたしに会いに来てくれるんだろう。


「気が気じゃなかったよ、俺」


夜空を眺めていた徹はわたしのことを見ると手を伸ばして、わたしの眼鏡を取った。ふんわりと笑うと、「やっぱり眼鏡してない方が可愛いよ」と言う。すぐに眼鏡をわたしにつけて、徹は立ち上がった。


「帰ろうか、送ってく」
「大丈夫、近いし」
「俺が送りたいの」


ね?と念を押すように言われて、わたしは頷くしかない。さりげなく引かれるわたしに左手。拒みきれないのは、アルコールのせいなのか。夜のせいなのか。合コンが終わった後で、寂しいからなのだろうか。何かのせいにすれば、徹のことを考えなくて済むのに。

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