最近やたらと後輩ちゃんに「先輩最近可愛いですね!」と言われるようになった。可愛いですねと言われてもお世辞にしか聞こえない。それにわたしはなにも変わっていない。生活習慣から食べているものまで、着ている服もいつもの制服で、わたしは今でも何の変哲もないOLでいるはずだ。後輩ちゃんに言われるようになる前と後で何か違うことはあるだろうかと考えてみる。一番に浮かんだのは徹の存在だった。


「先輩!今日合コンあるんですけど行きません?」
「えー・・・」
「先輩可愛くなったし、ワンチャンありますよ!」
「ワンチャン?」
「はい!」


昼休みに後輩ちゃんに話しかけられ、断り切れなかったわたしは久しぶりに合コンとやらに参加することになってしまった。正直苦手なんだよなぁ、合コン・・・。見ず知らずの人と飲むのは疲れる上に話題がないから話すこともない。こんなわたしが合コンに参加してもつまらなくなるだけじゃないか。いやいやいや、マイナス思考、禁止!男性陣の都合の関係で合コンは遅い時間から開始することになった。仕事が終わって家に帰ってからでも十分に間に合う時間。さすがに制服で行くことは気が引けるので一度帰って準備をしてから行くことにした。あまり乗り気じゃないから、メイクにも服にも気合が入らない、と思っていたのに。クローゼットを開いてこの間徹と選んだ服を見た途端、合コンが楽しいものに思えてくる。これはお洒落マジックなのだろうか。新品同様の服に腕を通し、メイクも服に合うように気を使った。だけど、いつもの眼鏡は忘れずに身につける。これがないと合コン乗り越えられない。









「先輩私服可愛いですね!」
「あ、ありがとう」


お洒落な居酒屋の前で後輩ちゃんがわたしが来るのを待っていた。後輩ちゃんはわたしを見るなり「可愛い可愛い」とべた褒めするものだから、少しだけ調子に乗りそうになってしまう。だめだめ、調子に乗るなんてだめ。どうやらわたしが一番最後に着いたらしく、合コンメンバーはすでに揃って個室で待っているとのこと。小走りで席まで向かうと、


「えぇ!?」
「こんばんは〜」


そこにはなぜか徹がいた。


わたしのことを知らんぷりするかのように華麗にスルーし、目の前にいる女の子と喋り出す。わたしの反応を見た後輩ちゃんは「先輩、及川さんと知り合いなんですか?」と聞いてきた。徹が知らんぷりを決めたのなら、わたしもそれに合わせることにしよう。「いや、人違いだったみたい」と言うと後輩ちゃんは「そうでしたか」と笑った。及川徹に双子がいるとは聞いていない、もしかしたら兄弟なのかもしれない。それにしても、似すぎてる。空いている席が徹の前しかなかったため、しぶしぶとその席に腰を下ろした。


「では、みんな集まったところで、乾杯しましょうか!」


後輩ちゃんが仕切り、あらかじめテーブルにあったビールで乾杯することにした。・・・徹はウーロン茶のようで、少しだけほっとした。乾杯の後自己紹介をする。目の前にはイケメンや、雰囲気イケメンや、どこかでみたことのある人や、及川徹がいる。女性サイドにはわたしと後輩ちゃんと、後輩ちゃんの友人二名。全員の自己紹介を適当に聞き流していたが、最後に自己紹介をした徹のところだけ納得いかないところがあった。「及川徹、大学三年生です」飲んでいたビールを思わず噴き出しそうになり、思いとどまる。そんなわたしを見てイケメンはタオルを差し出してくれた。やることもイケメンですね。目をぱちくりさせて徹を見るけど、終始ニコニコしていて心が読めない。わたしは合コンを諦めてお酒と食事を楽しむことにした。たった数個しか年が離れていないように見えるけど、喋る内容に全く付いていけない。一人でもくもくとお酒を飲み、ご飯を食べる。わたし、べつに来なくても良かったんじゃないの・・・。所詮数合わせか。トイレに立ち、部屋に戻ってくるといつの間にか席替えがしてあり、徹とイケメンさんは女の子にチヤホヤと囲まれていた。その女の子と仲良く頑張ろうとする他男子。わたしはそれを静観しながら食事をすることにした。こんなときはいくら飲んでも酔う気がしない。「酔っちゃったー」とか言いながらボディタッチをするような女の子のことを可愛い女の子なのだと思うんだ。わたしはそうはなれない。

合コンを完全に諦めた。お腹もいっぱいになったことだし、多めのお金をテーブルに置いて、後輩ちゃんに「先に帰るね」と伝えて席を立った。









ひとりぼっちになった帰り道。お酒も入って少しだけ気分は良いけど、たくさんの人と一緒にいた後のひとりぼっちは、寂しい。お酒が入っていなかったらこんなことは思わなかっただろう。それになんなんだ大学三年生及川徹。どこからどう見てもわたしの知ってる高校三年生の及川徹じゃないか。ヴヴヴヴヴと鞄が震え、そう言えば携帯をマナーモードにしていたままだったなと思い、取り出す。ちかちかと光りながら及川徹からの着信を精一杯伝えている携帯電話が健気に思えて、涙が出そうになった。今更酔いが回ってきたらしい。


「もしもし」
「帰っちゃったの?」
「・・・やっぱりアレは徹だったんだね」
「うん、あたり〜」
「大人っぽいね」
「ありがと」
「何か用?」
「オネーサン今どこにいるのかなって」


遠くから「及川くん電話ー?」「誰とー?」「あ、あたし及川くんの連絡先知りたい!」と聞こえる。なるほどまだ居酒屋ですか。妙にイライラしてきて電話を切った。するとすぐさま電話がかってくる。条件反射のように出てしまい、「今から行くから、動かないでね」と言われた。電話の向こうではまだわいわいがやがやと騒がしくて、やっぱりわたしは場違いだったなーなんて感じる。わたしがいない方がきっとずっと盛り上がっていたのに。電話を切られてしまう前に「でも徹が居なくなったら合コン盛り下がっちゃうんじゃないの?」と言った。


「知ったこっちゃないよ、そんなの」
「なんで」
「オネーサンがいないとつまんないもん」


ねーオネーサンって誰ー?
さっきから誰と電話してるのー?
及川くんバンプできるー?


「ほら、呼ばれてるよ、徹」
「オネーサンも俺のこと呼んでるでしょ?」
「呼んでないよ」
「今から、行くから」


念を押すように「そこから動かないでね」と徹は言った。わたしは溜息をついて電話を切る。あたりを見回して座れる場所を探す。近くに公園があって、そこのブランコに腰を落ち着けた。


「なにやってんだろ、自分」


わたしの独り言は夜の空に消えて行った。なんで徹を待ってるんだろう、自分。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -