帰りのHRで先生が「変質者が出たと言う報告が結構来てるから下校のときは注意して帰ること」と言った。暖かくなると変質者が出るとよく聞いてはいたけど、本当に変質者っているんだなぁ。ぼんやりと聞きながら今日の放課後に待ちかまえている委員会のことを考えた。







「うわー真っ暗」


クラスから一名ずつだけの委員会で、知り合いなんていなかった。楽そうだから図書委員でいいかーなんて思っていたけれど全然楽じゃない。今日は本の入れ替えに時間がかかって、帰るころにはすっかり辺りは真っ暗になっていた。部活で残っている生徒もほとんどいないし、友達はみんな帰った後だ。ローファーに履き替えて生徒玄関から出る。校門から出るときに見覚えのある黒塗りの高級車を通り過ぎた。花宮くんが乗って帰った車にそっくり。

お腹すいたし、早く帰ろう。

いつもよりも速い速度で歩く。わたしのローファーがコツコツと地面を鳴らす。そのスピードに合わせてもう一人分の足音が、わたしの後ろから聞こえてきた。普段なら気にしないのに、帰りのHRで先生が「変質者が出た」と言ったことを思い出しちゃって、気になってしまう。わたしが立ち止まるとその足音も止まって、わたしがゆっくり歩くと、その足音もゆっくりになり、早歩きをすると、その足音も早歩きになる。もしかして変質者、なんて考えが頭によぎりだした。背中に嫌な汗をじんわりとかく。鞄の取っ手を握りしめる手が、汗でじっとりとしめっていた。制服のポケットに入ってるスマホを握りしめて、わたしは思い切って後ろを振り返った。


「花宮 くん」


頼りない街灯に照らされた 花宮くんがいた。

車道を通り過ぎる車のライトが眩しかったのか、花宮くんは目を細めている。


「車で帰らないの?」


わたしの知っている花宮くんは車通学のおぼちゃまで、部活後で疲れているだろうし、歩いて帰るようには思えないんだけど。それにこっち方面だったっけ。花宮くん。


「今日は歩き」
「ふうん。そうなんだ」


わたしが歩き出さないと、花宮くんも歩き出さないようで、わたしはまた前に向き直り、家に向かって足を踏み出した。コツコツと二人分の足音が響く。住宅街だから街灯は必要な分しかないし、コンビニとかお店がたくさんあるわけじゃないから辺りは暗い。わたしの後ろをついて歩いていたのが花宮くんで、わたしはなぜか安心した。変質者でも、見ず知らずの人でもなかったからなのか。他の何かなのかはわからない。

結局わたしと花宮くんはその後一言もしゃべらずに歩き続けた。わたしの家の方が近かったようで、わたしの方が先に家にたどりついた。ドアノブに手をかけてから、花宮くんの姿を探す。わたしの家から数メートル離れたところに後ろ姿を見つけた。


「近所に住んでるのかな」


花宮なんて名字、聞いたことないけれど。

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