お礼すらまともに言わせてくれないらしい。わたしの手元に残ったままの花宮くんの傘。どうしろと言うのですか。鞄の中に潜む花宮くんの傘を抜き取り、席を立った。花宮くんがバスケ部の人たちと居る時はすごく近寄りがたいから、できるだけ一人の時を狙いたい。放課後、部活に向かう花宮くんを数メートル後ろから追いかけた。エナメルバックを担いだ花宮くんは人混みをするするさけて体育館へ向かっている。ああもう少しで体育館へついてしまう。そうしたらバスケ部メンバーと合流しちゃって、さらに近寄りがたくなってしまう!そうなる前に!

いつもこうやって追いかけていると見失ってしまったり、バスケ部の人と合流したりしてしまい、渡せずじまいだ。ずっと手元に置いておくのもよくない。折り畳み傘なんて腐るほど持っているかもしれない。でもやっぱり借りたものは返さないと。


後もう数歩で花宮くんに追いつく距離になったとき、花宮くんは立ち止った。バスケ部が使っている体育館に続く廊下で、バスケ部以外は通らないからだろう。人通りが少なくなった。大丈夫。まだスタメン様様はいないから。柱の陰に隠れて花宮くんの様子を伺うと、花宮くんは振り返らないで言った。「いつまでそうしてるつもりだよ」どうやらわたしが花宮くんの後をつけていたことに、とっくに気がついていたらしい。柱の陰に隠れるのはやめて、手を伸ばせば花宮くんに触れるくらいのところまで近づいた。


「あの、傘、ありがとう」


花宮くんが傘を貸してくれた日から色々考えたんだけど、わたしが思っているよりも花宮くんはそんなに悪い人ではないのかもしれない。

なんて幻想だった


「は?それ俺のじゃねぇし」
「え」


確かにこれは花宮くんが貸してくれたもので、「車があるから」とかなんとか言って、わたしに手渡してくれたものだ。間違いなく、あの時のあの人は花宮くん。間違えるわけがない。それなのに花宮くんはこの傘を自分のものではないと言う。・・・折り畳み傘ってこんなに重たかったっけ。


「やるよって言っただろ。それはもう俺の物じゃない」
「え」
「何度も言わせんな」
「え」


つまりこの折り畳み傘はもう花宮くんのではなく、わたしのものだと、そう言いたいのですか。そうまでして、わたしの触った物に触れたくないのですか。


「・・・ありがとう。すごく、助かったの」


結局パクられてしまったわたしの傘は返ってくることはなかった。言い逃げ上等。無表情で何を考えているか読み取れない花宮くんに、聞こえるか聞こえないか分からない小さな声で行って、踵を返す。花宮くんの傘をわたしは握りしめて、人通りの少なく鳴った廊下を、教室目指して走る。やっぱりわたしは花宮くんが嫌いだ。

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -