雨が降ってきた。天気予報は雨だから、ちゃんと傘を持ってきた。朝カラッと晴れていたから雨が降るなんて想像できなかったけど、たまには天気予報も当たるもんなんだね。昇降口へ行き、下駄箱から靴を取り出した。ローファーに足を入れて、傘立てを見る。


「あれ?」


朝、傘立てにちゃんと入れておいたはずなのに!そこにわたしの傘はない。むしろ空っぽ。百均で買った安物の傘だからお財布には痛くはない。だけど。


「えぇー・・・」


外はバケツをひっくり返したような土砂降り。こんな雨の中傘をささずに帰るなんて。どこの誰だよ。わたしの傘をパクった人は。明日風邪ひいたら呪ってやる。どうしようかと昇降口の軒下から外を眺める。落ちる雨はタイルに跳ね返って、わたしの足もとを少し濡らした。


「あーあ」


雨はやみそうにない。灰色の空を睨んだ。睨んだところでやむわけじゃないけど。

カツン。

誰かの足音が後ろから聞こえて、わたしは振り返った。そこにはいつものように背中を丸めて歩く花宮くんが、眉間に皺を寄せて立っている。わたしが入口に立っていたから、外に出られなかったのだろう。わたしのことを睨んでいるようにも見えてしまう。一歩ずれると花宮くんはわたしの隣に並んで、土砂降りの雨に向かって、手を伸ばした。ぼたぼたと大量の雨が花宮くんの手に降り、ぱちぱちと跳ねた。しばらくすると花宮くんは手を引っ込めて、水滴を飛ばすようにピッピッと振る。その水滴がわたしの顔まで飛んできて、思わず「つめたっ」と言ってしまった。花宮くんはそんなわたしにお構いなく、エナメルバックから品のいい折りたたみ傘を取り出すと、一気に開いた。


「やるよ」
「は?」


いつか見た映画の少年のように、花宮くんはその傘をずいっとわたしに寄越す。花宮くんはいつもと変わらず無表情で、何を考えているか読み取れない。わたしが受け取らずにいると、傘を閉じて、ドアに立てかけるようにして置いた。


「ちょ、花宮くんは?」
「いい。すぐそこまで車来てるから」


さっきよりは雨足は弱くなってはいるが降り続いている雨。花宮くんは気にせずに雨に打たれる。校門のところに黒塗りの大きな車が停まっているのが見えた。その車の中に吸い込まれるようにして、花宮くんは乗りこんだ。ボンボンなんですか。花宮くん。

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