鞄にずっと入れっぱなしになっている折り畳み傘に優しさ半分の頭痛薬。少し先に黒塗りの車。わたしと花宮くんの仲も次第に良くなっていったような気がする。いやわたしが無視をすることをやめただけなんだけど。


花宮くんが口パクで「好きだ」って言ったように見えたんだけど、あれは白昼夢だったのかな。花宮くんはなにもかわらない。


昇降口に立って雨がアスファルトを叩いている音を聞く。なんだかんだ、わたしは花宮くんに優しくされてたんだよね。優しくしてくれたのに、わたし気づかない振りしてた。素直じゃない花宮くんが、優しくするだけじゃ終わらないなんて、すぐに分かることなのに。


手に持った新しい傘。校門の脇に待ちかまえている黒塗りの車。パンッと傘を開いて雨に濡れたアスファルトに足を踏み出す。


「おい」


後ろから声を掛けられて振り返るとそこには花宮くんが立っていて。


「どうしたの?」
「傘忘れた。入れろよ」
「え」


だってあそこに黒塗りの車があって、それの乗っちゃえば雨に打たれずに帰ることだってできるはず。それに二人で使うならこの傘は小さすぎる。あ、そうだ。鞄の中に手を突っ込んで折りたたみ傘に触れる。


「・・・」


でもその傘を取り出すことができなかった。


「仕方ないから入れてあげるよ」


だって相合傘で帰ったら、いつもよりも花宮くんを近くに感じられるじゃん。黒塗りの車を通り過る。わたしは全然濡れていないのに、花宮くんの肩がしっとりと濡れている。わたしがそれに気づいてなんかしちゃうと、花宮くんは悪態ついたりするから何もしない。


嫌いだよ。花宮くんなんて。


そう思い込むのは、ずっと前に辞めたんだ。


「花宮くん」


心臓の音がうるさいけど、きっと雨が掻き消してくれるはず。


「好きだよ」


初めて花宮くんに出会ったとき、こんな風に花宮くんのことを好きになるなんて、想像できなかった。


「口パクじゃなくてちゃんと言ってよ」
「誰が言うか、バァカ」


花宮くんはくしゃくしゃとわたしの頭を撫でた。大きな手だなぁ。
花宮くんは、傘で隠すようにして わたしにキスをした。


「わたしのこと好きだって言ってくれない花宮くんなんて 嫌いだよ」
「うっせーよ」


唇をはむようにして、花宮くんは 好きだ ってもう一度言った。

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テーマ「人外ファンタジー」
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