風の噂で、花宮くんは告白を断ったのだと聞いた。それを聞いたわたしは安心する。ああ、もう。なんで好きになっちゃったんだよ。わたし、花宮くん嫌いなはずじゃないのか。教室に着いて、自分の席に鞄を置く。まだ空っぽの隣の席に目をやる。お腹をさすって、椅子に座った。しばらくすると朝練をしてきたらしい花宮くんがやって来て、ドカリと偉そうに席に座った。石鹸のこの香りは制汗剤の香りなのだろうか。そんなことばかり考えてたらなんだか無性に恥ずかしくなって来ちゃって、いつも花宮くんが言う悪口にわたしは前みたいに反応できなくて、時々花宮くんはしかめっ面をする。

大根足って言われたって、前までは「うるさい!」とか反撃していたのに、今じゃ「う、うるさい・・・」みたいに全然棘がなくなってしまった。花宮くんは不思議そうな顔をする。宿題も前みたいに見せてなんて言えなくなっちゃって、解けない問題がどんどん増えて行く。一番解けないのは、自分の心なのだけれど。普段通りを徹しようと思っているのに、どうしてもできない。

花宮くんを好きだと気がついたときから、わたしはしだいに花宮くんを避けるようになっていって、それは誰から見ても明らかだった。


「カオリちゃん、花宮くんと喧嘩したの?」
「へ!?し、してないよ全然!」
「そうなの?最近喋ってないから」
「あはは、は」


喋りたいのは山々なんだよ。それなのにうまくいかないんだ。乾いた笑いしか出てこないよ。好きになっちゃうなんて、想定外。花宮くん、わたしの気持ちを知ったら、きっと馬鹿にするんだろうな。







隣の席だっていうことに苦痛を感じるようになってしまった。お腹がキリキリする痛みじゃなくて、嬉しいんだけど、苦しいと言うか。わたしに突っかかる花宮くんを、無視するようになった。言葉を返すことも、辛くなってしまって。だって言い返すたびに花宮くんはわたしのことを嫌いになりそうで。シカトするわたしが気に食わなくなったのか、花宮くんは日に日に苛立って行った。


「可愛くねぇ女」


分かってるよ、そんなこと。言われなくたって、分かってる。


「貧乳」


うっせーばーか。


「こっち向けよ」


誰が向くか。どうせわたしのこと 嫌いな癖に。



「向けよ」



自習と大きく書かれた黒板。騒がしい教室内。自習の最中にやっておくようにと配られたプリント。誰もわたし達のこと、見ていない。周りの声がうるさいのに。聞き分けできないのに。花宮くんの声だけはちゃんとわたしの耳に入って。やっと花宮くんの方を向く。いつもみたいに眉間に少し皺を寄せて、馬鹿にしたような顔をして口パクで花宮くんは言った。


「   」


読唇術なんて会得してないけど、花宮くんがなんて言ったかわかってしまった。熱くなっていく顔を隠すために、わたしは机に突っ伏した。隣で花宮くんがくつくつ笑っているような気がする。


クソウ、むかつくなぁ。


こんなんじゃまるで、わたしも好きですって言ってるようなもんじゃないか。

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テーマ「人外ファンタジー」
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