「花宮くんを呼び出してほしいんだけど・・・」


わたしにそうお願いしてきたのは他のクラスの、喋ったことのない女子生徒だった。


「え、ええ?」


ふわふわの茶色い髪の毛。カラコンでも入ってるのか黒目がちのお目目。真っ白いお肌。誰がどこから見ても可愛らしい女の子。こりゃ敵わないわ。いや別にこの子と競うつもりはないのだけれど。とくに用事ないから、さっさと帰ろうと教室を出たときに声をかけられた。なんで喋ったこともないのにわたしの名字を知っているのかすごく気になったし、わたしが花宮くんを呼び出すという役割を与えられることになったのも、気になった。なんでわたしなんだろう。他にも適任な人はいそうだけど。バスケ部の人とか。バスケ部の人とか、はたまたバスケ部の人とかさ。


「だめかな・・・?」
「いや、ダメとかじゃなくて」


心臓がなぜかひやっとした。頭は熱いのに、心臓だけ冷たくなって、わたしはその場から動けなくなってしまう。たいして荷物の入ってない鞄がやけに重たい。部活に向かう生徒、友達のクラスに行こうとする生徒でざわつく廊下。うるさく感じるはずなのに、耳からスーッと抜けて行くようだ。


ああ そうか
いやなんだ

花宮くんを呼び出すことが


「ええっと、ダメじゃないんだ け ど」


この感情がなんなのか、わたしにはわからない。わからないんだけど、


「あーえっと。ちょっと待っててくれないかな」


でも知りたくないから。知らんぷりをして、花宮くんを呼び出すべく教室に戻った。ちらりとあの子を見ると、嬉しそうな顔をして、期待のまなざしでわたしのことを見ていた。教室に入ると、花宮くんはけだるそうに荷物をまとめていて、これから部活に行くようだ。花宮くんの目の前に立つと、花宮くんは不思議な物を見るようにわたしのことを見た。


「廊下で花宮くんを待ってる女の子がいるよ」


わたしがそう言うと花宮くんは大きく息を吐いて言う。「それがどうかした」


「可愛い女の子だったよ」

「髪の毛ふわふわの、女の子らしい女の子だった」

「多分隣のクラスの子」

「あれは間違いなく告白する目だったよ」


花宮くんが興味を示すようにわたしが言っても、花宮くんは荷物をまとめることをやめない。ゆっくり鞄に本やらを詰めている。「女の子が待ってるんだよ」わたしがもう一度言うと花宮くんはピクリと眉を動かした。


「お前、そんなに俺に行ってほしいの?」


(行って ほしくない)


あの子のもとへ、行ってほしくない。


(なんで?)


わたしが何も言わないでいると花宮くんはエナメルバックを肩に担いで、出て行こうとした。その肩ひもを、気がついたら掴んでいて、花宮くんは驚いた顔をしてわたしのことを見た。わたしもたぶん、同じくらい驚いた顔、してると思う。自分が花宮くんを引きとめるなんて、想像もしなかった。慌てて掴んだ手を離して、「いやなんでもない。ごめん」


気づきたくなかったんだ。知りたくなかったんだ。でも 嘘はつけない。



わたし 悔しいけど どうやら花宮くんが好きらしい。



花宮くんは少しだけ首をかしげて、教室を出て行った。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -