千代ちゃんは、僕のヒーローだった。
僕が変な人呼ばわりされたら、飛んできたし。おそ松兄さんたちと一緒になって、僕のことをいじめる人を、いじめ返していた。
言いたいことがうまく伝えられなくて、もじもじしていれば千代ちゃんが代弁してくれて、僕は、何度、救われたことか。

千代ちゃんは、ずっと僕のヒーローだった。

小さいころは僕よりも背が高かった千代ちゃん。背伸びしてやっと同じくらいの身長だった。だからなのか。同い年のはずなのに、僕はなぜか千代ちゃんのことをお姉ちゃんのように思っていた。小学校の時も、中学校の時も、家が近所だったからすぐに遊んだり、助けに来てくれたよね。高校になって、一学年何百人といて、クラス離れちゃってから、会ったりお喋りできなくなった。近所のはずなのに、家の近くでも会うことはない。高校生になれば、僕もいろいろと吹っ切れて、僕のことをいじめる人はいなくなったけれど、その代わりに千代ちゃんが僕を助けに来てくれることもなくなってしまった。

千代ちゃんは、ずっと僕のヒーローだと、思っていた。

そんなことあるはずないのに。
久しぶりに学校の廊下で千代ちゃんにすれ違った。最初は気づかなくて、ちょっと経ってから気付いて振り返ると、千代ちゃんも同じように振り返ってくれて、そして、僕に手を振る。僕も大きく両手を振り返すと、先生の顔面に肘がクリーンヒットしてしまって、怒られた。
ねぇ、千代ちゃん。知っているかい。僕、いつの間にか千代ちゃんよりも背、高くなってたんだよ。
すれ違わなかったら気が付かなかっただろう。千代ちゃんは僕よりも一回りも二回りも小さかった。千代ちゃんが小さくなったんじゃない。僕が大きくなったんだ。

その時やっと、思い知る。
千代ちゃんは女の子で、僕は、男の子だ。

そのことを理解した瞬間に、僕は、なぜだか泣きたくなった。
守られているだけの僕は、千代ちゃんを守りたいなんて、思うようになったんだ。

廊下で先生にがみがみと怒らている僕を、遠くで笑いながら見てる千代ちゃん。横目にその顔を盗み見ると胸のあたりがあたたくなった。千代ちゃんがずっと、僕にしてきてくれたように、僕も千代ちゃんにしてあげたい。なにかあったら駆けつけてあげるし、千代ちゃんをいじめる人がいたら、僕が成敗する。

僕は、千代ちゃんのヒーローになりたい。

やっと先生のお説教が終わって、廊下を走って千代ちゃんのところへ行く。駆け足で踏み込んで、びょんっと跳ねると、千代ちゃんは驚いた顔して「十四松!?」と言った。

「千代ちゃん!」
「さっきまで怒られてたけど大丈夫?」
「大丈夫!!」
「そっか。それならよかった」

千代ちゃんのこと見てると、言いたいことが山ほどあって、ここ最近全然会えなかったから喋りたい話題もたくさんあるはずなのに、一気に頭の中から飛んで行ってしまった。

「千代ちゃん!」
「なに?十四松」
「おれ、千代ちゃんよりも背、高くなったよ!!」

そう言うと、千代ちゃんは小さいときと全然変わらない笑顔でこう言った。

「うん。とっくに知ってたよ」

僕はその笑顔を、守りたいのだ。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -