まさか、そんなことがあるはずないと思っていた。

だってニートだよ?金ないし、イケメンでもないし、これといっていいとこあると思えないよ、俺。自分のこと過大評価するつもりはさらさらない。夢はでっかくカリスマレジェンドなんて冗談みたいなもので、半分は本気だけど、もう半分は、嘘だ。
俺の目の前にいる女の子は、俺に頭を下げている。顔はどんなだったっけ。正直覚えてない。走った後みたいに、心臓がばくばくと脈を打っているけれど、彼女の心臓は俺の倍くらいに脈打ってるんじゃないの。

俺、たった今、人生で生まれて初めて告白されました。

高校生くらいまでだったら、ぼんやりといつか誰か女の子に告白されるもんだと思ってた。順当に彼女ができて、そんで結婚して、子供ができるもんだと思っていた。それがどうだ。二十歳超えても未だに童貞。しかもニート。俺が思い描いてた将来像とは真逆を行ってる。
そんなわけで、俺はきっとこれから先も誰からも告白されずに、こんな風にだらだらと死ぬまで生きていくもんだと、思っていたんだ。

「あ、あのさ、顔あげてくんない?」

つむじしか見えなかったけど、ようやく彼女は顔を上げて、俺の方を向いた。さっきは「好きです付き合ってください!」っていきなり言われて頭下げられたから、全然顔見えなかったんだけど、彼女の泣きそうな顔見て、思い出す。

「あれ、もしかしてこの間電車で・・・?」
「そうです、あの時は助けてくれて、ありがとうございました」
「タハハ、当然のことをしたまでで」

そう、この間電車乗ってた時に、チカンに遭ってたんだよね、彼女。たまったま俺が近くにいたから「オイオッサン」ってドスきかせた声ですごんだら、オッサン委縮してそのまま鉄道警察へGOしたわけだけど、あー、そっかそっか。あの時の女の子か。
俺は鼻の下を人差し指で擦った。

「で、なんで俺なの?」

名前はこの間聞いたような気がするから、真っ赤な他人ではないけれど、ほぼ他人だ。彼女の趣味嗜好なんてまったくわからないし、ましてや年だってわからない。どこに住んでいて、何をしてるのかもわからない。そんな彼女が、俺のことを好きだって?そんなの簡単にハイそうですか、付き合いましょうなんて言えるわけがないんだ。伊達に童貞やってないよ。

「あなたしか、わたし、見えなくなっちゃったんです」
「は?」
「あの日から、あなたことばかり、探してしまうようになったんです」
「えぇ・・・?」

懇願するような目で、俺を見ないで。

「これって、恋だと思うんです」

ぎゅっと、手を握られた。
強い風が吹いて、街路樹がざわめく。
その風に乗って、甘い香りが、俺の鼻をくすぐった。

「松野さんは、どう思いますか?」
「どうって、」

俺も恋に落ちたみたいなんだ。なんて言ったら、君はどんな顔をするのかな。

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テーマ「人外ファンタジー」
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