「ジャスト4分。まあまあだね」


事務所の出入り口に車が急停車したのが見え、ボクは資料に目を通すのをやめて席を立った。バタバタと大げさな足音を立てて誰かがボクに近づいてくる。誰かなんてそんなの考えなくてもすぐに見当がつく。間違いなく、千代だ。


「美風さん!!遅いですよ!遅刻しちゃいます!」
「千代が3分でここまでくればよかったんじゃない?」
「そんな無茶な・・・。ほらほら早く行きますよ!」


ボクの腕をがっちりつかむと千代はずんずんと歩き出た。「掴まなくてもちゃんとついて行くし、遅刻はしないよ」と抗議すると千代は「いーえ離しません。美風さんはどうやらわたしを嫌っているようなので、こうでもしないとダメな気がします」と答えた。ボクは諦めて千代の行動に従うことにする。車に着くなりボクはポイっと乱雑に車に押し込まれ、千代はバタンと大げさに扉をしめた。そんなに乱雑に扱わないでほしい、ボクを。ちょっとやそっとじゃ壊れる気はしないけど、やっぱりボディを傷めつけたくないしね。千代が運転席に座り、「荒い運転になると思いますので、覚悟してくださいね」と冷めた声で言った。そこまで怒ることないのに。その言葉通り千代の運転は荒い。急ブレーキに急発進。いきなり細い道に入ったりして事故るんじゃないかとひやひやしていた。事故に遭ってボクが滅茶苦茶に壊れてしまったらもういろいろと隠しようがなくなってしまう。それだけは避けたい。「ねぇ大丈夫なの?」と口を開けば「舌を噛んでしまうかもしれないので余計なことは喋らないでください」と言われる。・・・千代は冷たい。


そんなこんなで近道を行き、スタジオへ着いたのは撮影の始まる5分前だった。


「遅れてすみません!」


スタジオへ着くなり千代が大きく頭を下げた。カメラマンや周りのスタッフは「まだ5分前だし問題ないよ」と言ったし、ボクもその通りだと思う。でも千代の丁寧な姿勢に誰も悪い気はしていなくて、和やかに撮影が始まった。撮影の後にはインタビュー。これから出す新曲のことや、タイアップ商品のこと、プライベートのことも少し。どんな女性が好みなの?とか聞かれてもボクは人を好きになると言う経験はないし、人を好きになれるかどうかも分からないので、目の前にいた千代のことを言った。ボクに一番近い女性は今のところ千代だったから。




「ちょっと冷たくて、でも真剣な人」




ボクが千代のことを言ったなんてきっと千代には伝わらない。だってボクの感じた ちょっと冷たくて、でも真剣な人 は千代の一部分でしかないから。本当の千代は ちょっと冷たくて、でも真剣な人 じゃないかもしれないから。


・・・真剣さは認めるけど、マネージャーとして認めたわけじゃないからね。

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