長谷部が主名とあらば何でもしますよって言ってくれたから玉ねぎのみじん切りをお願いした。


「長谷部・・・大丈夫?」
「これくらい何ともありません」


さっきからもう何十個と玉ねぎのみじん切りをしてくれている長谷部は今にも泣きそうだ。長谷部の睫毛が涙にぬれてきらきらしている。長谷部って実は睫毛長いんだよなぁ。


「主は大丈夫ですか?」
「うん。わたしは薬研に眼鏡を貸してもらったから平気だよ」
「それならば何よりです」


もくもくと玉ねぎのみじん切りを続ける長谷部の横で、わたしはその玉ねぎをせっせと袋に詰めている。玉ねぎのみじんぎりは冷凍できるし重宝している。一人ではこんなにたくさんみじん切りなんてできないから、つい、いつも主名を求めている長谷部に頼んでしまった。お願いすると長谷部はいつも通りに顔色一つ変えずに「主名とあらば」と言って引き受けてくれる。そうやって顔色一つ変えない長谷部が、こんな風に涙を堪えると気が来るなんてね。

こぼれるかこぼれないか、長谷部の瞳は涙が湛えられている。瞬きをしたら溢れてしまいそうだ。眼鏡をしていても玉ねぎがつーんと目に染みる。長谷部はついに耐えられなくなったのか瞼を閉じてしまった。


「わわわわ!」


その瞬間、長谷部の瞳から大粒の涙がひとつ、ふたつと流れて行く。なんてきれいなんだろう、と思わず見とれてしまったが、わたしの手は玉ねぎまみれ、長谷部の手も玉ねぎまみれで涙を拭ってやることができない。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら「長谷部大丈夫?」と聞くと「問題ありませんよ」と長谷部は答えてくれる。けれど、さっきから目を開こうとしていない。そうとう辛いんだろう。


「辛いなら辛いって言っていいよ」
「辛いわけないでしょう」
「だって目が開けられないんでしょ?」
「開けられますよ」
「じゃあ開けてみてよ」


ゆっくり、ゆっくり長谷部が目を開いてゆく。その瞳はいまだに涙で溢れている。


「長谷部、前ぼやけて見えないでしょ?」


長谷部の視界は涙でかすんでしまっているに違いない。わたしが聞くと長谷部は何も言わず、頷きもせず、どうすることもせず、ただ涙を堪えていた。


「前も言ったけどさ、わたしくらいには思ったこと言っていいんだよ?疲れたーとかもうやりたくないーとか。長谷部がわたしのこと尊敬してないのも分かってるし、わたし自身頼り甲斐ないと思ってるけど、一応今の主なんだから、長谷部には無理してほしくないの」
「しかし、」
「しかしじゃない。そんなに泣いて前が見えないのにみじん切りして指でも切られたらそれこそ大変なんだから、今日はもう下がって。ね?」


少しきついこと言ったかな、と感じたけど、これくらい言わないと長谷部には通用しない。長谷部にはこの小娘がくらいに思われているのだろう。それでもわたしは舐められちゃいけないんだ。長谷部は一瞬悩んだそぶりを見せて「主の望みであるならば」と言って包丁から手を離した。・・・これでよし。


「ありがとうね、長谷部。本当に助かった」
「いえ、礼を言われるようなことはしていませんよ」
「今日の夕餉は何が良い?」
「そうですね、できれば玉ねぎを使ってない料理が良いです」
「わかった」


この玉ねぎ使って坦々うどんでも作ろうかと思ってたけど、それはどうやらだめらしい。長谷部は優しいんだか冷たいんだか。たくさん玉ねぎ触っていたら食べたくなくなる気も分からなくもないけれど、これだけ玉ねぎのみじん切りがあるんだから、使いたくもなってしまう。玉ねぎのみじん切りをしてる場合じゃない。新しいメニューを早く考えなくちゃ。玉ねぎ使わなくて、食べ応えがあって、美味しいもの。それで、長谷部が喜んでくれる料理。


「お魚?」
「そうですね」
「お肉?」
「・・・そうですね」
「どっち!」
「・・・以前主が作ったはんばぁぐとやらが食べたいです」
「ハンバーグ?あれ玉ねぎ入ってるよ」
「っ!!」

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