「今帰ったぞ!」

遠征に行っていたみんなが帰って来たらしい。岩融の大きな声が響いた。文を書いていたけれど筆を置いて、わたしは声のした方へと向うべく立ち上がった。襖を開けるとすぐ目の前に岩融がいて「主!」とわたしを呼んだ。


「おかえり、岩融」
「ただいま戻った」
「怪我はない?」
「あぁ問題ない。それよりこれを見てくれ!」


岩融は持っていた壺をわたしにぐいっと寄せる。ハテ何があるんだろうと思い壺を覗きこむとそこにはキラキラ光る魚がいた。この魚には見覚えがある。


「・・・鮎?」
「そうだ、よくわかったな!」
「どうしたの?」
「つかまえた」
「え、」
「帰りに川があったんで水浴びしていたら鮎が見えたから捕まえてきた」
「さすが岩融だね」
「塩焼きにしてくれ!」
「そうきたか」


魚は捌けないことはない。でもこう目の前で泳がれると、気が引けてしまう。でも遠征に行って大成功を治めて帰って来てくれたんだ。その願い事をきかないわけにはいかない。わたしは「じゃあ台所へ行こうか」と言って、部屋から出る。わたしの後を鼻歌交じりでついてくる岩融。ちゃぷんちゃぷんと水の跳ねる音が聞こえた。

台所について改めて壺の中を見る。二匹の鮎が所せましと泳ぎまわっていた。今からその二匹の御命をいただくことになる。自然の恵みに感謝せねば。

「二匹しか捕まえられなくてな」
「そうなんだ」
「だから主と俺の分だけだ!」
「みんなには内緒だね」


壺に手を入れて鮎を折り出す。思った以上に水が冷たくて、びっくりしてしまう。まな板の上に鮎をのせて、手を揃える。


「ありがとう」


わたしの後ろから岩融が屈んで覗きこんでくる。そんなに心配しなくても、ちゃんとできるよ。


「主」
「なに?」
「主は小さいな」
「岩融は大きいね」


体は大きいのに、中身は少年みたいな岩融に、いつも救われている。だからかな、岩融に自分の弱さを見せたくなるのは。がははと笑い飛ばしてくれそうだからかな。


「岩融」
「なんだ?」
「近い」
「おお!失礼した!主は小さいから心配でな!」
「もう、子供扱いしないでよね」
「ハッハッハッ」
「あ、岩融七輪の準備してくれる?」
「相分かった!」


岩融は大きく頷くと収納棚の下の方に閉まってある七輪を取り出して外へ行った。岩融は木炭に火をつけるのが得意だから、すぐに焼けるだろう。はらわたを取った鮎をお皿に乗せて、わたしは岩融のもとへ行く。命をいただいて、わたしたちは生きている。岩融たちは、わたしの命で、命を狩りに行っている。それをわすれちゃだめだ。


「岩融お待たせ」
「待ちくたびれたぞ!」
「火はついた?」
「もちろんだ」
「岩融、ありがとうね」
「・・・?」
「ありがとう」
「なぁに、また釣ってくるさ」
「・・・うん。そうだね」

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テーマ「人外ファンタジー」
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