「おや、おかえり。主」
「ただいま鶯丸」
「すごい荷物だな。今回の帰省で何をそんなに買って来たんだ?」
「ホットケーキミックスと、たい焼き器。あとあったかくなってたから新しい服」
「半分持とう」
「ありがと」


功績が認められ、お偉い様方から許可が下りると、わたしはもといた時代へ帰省することができる。その度に発電機を持ち帰ったり、漫画を持ち帰ったり、この時代では手に入りにくいものを持ち帰ったりしていた。未来のものがなくても生きていけるなぁと気がついたのは、ここへきてしばらくたった時で、最初のうちは何もないことが不安で仕方がなかった。慣れって怖い。

鶯丸はわたしの両手をふさいでいる荷物をひょいと持つと「想像以上に重たいな」と一言溢し、わたしの後をついてきた。やっぱり力持ちなんだね。


「たい焼き・・・?」
「鶯丸知らない?」
「知らないな」
「あまいお菓子なんだけど、お茶に合うんだよね」
「お茶か」
「うん。あ、わたしさっそく作っちゃうからう鶯丸お茶淹れてくれる?」
「それじゃあとびきり美味しいお茶を淹れるとしようか」


わたしの書斎に荷物を置いて、必要な物だけ持って台所へ向かう。いつも淡々としている鶯丸だけど、心無か楽しそうに見える。電気のたい焼き器とフライパンのたい焼き器、どっちにしようか悩んだ末に結局フライパンの方にした。これなら焜炉で焼けるし、電気なくても大丈夫。


「わたしがいない間、変わりはなかった?」
「何もなかったような気がするが・・・」
「ご飯みんなでちゃんと食べた?」
「食べた」
「それならよかった。あ、鶯丸あんこ大丈夫?」
「大丈夫だ」
「あ、コレみんなには内緒ね?ばれるとみんなの分作らなくちゃいけないし」
「一人占めか」
「鶯丸とわたしだから二人占めだよ」


台所について鶯丸はお湯を沸かす。わたしはせっせとホットケーキミックスを使って生地を作り始めた。コツは醤油と砂糖と水を煮詰めたシロップを入れること。泡立て器はだいぶ前に持ってきたし、手際良くちゃちゃっと作ることができた。鶯丸はわたしが生地を作る姿を興味深そうに見ている。フライパンを火にかけていよいよたい焼きを焼いていく。うーんそれにしてもやっぱり鉄鍋は重たいな。


「ほら、鯛っぽいでしょ?」
「まあ、言われてみたら確かに見えないこともないな」
「・・・さっきからずっと見てるけど気になるの?」
「全然気にもならないが」


嘘だ。と思ったけど、問い詰めるわけにもいかないし、わたしはさっそくたい焼きを作ることにした。あんこは現代にいるときに買って持って帰って来てある。未来は楽だ。もしこの時代でたい焼き作ろうと思っても物は揃わないし、あんこは自分で小豆を炊くところから始めなくちゃいけない。

生地をフライパンに注いであんこを乗せてしばらく焼いてふたをする。甘い香りが台所一杯に広がった。すぐにほかほか焼きたてのたい焼きが出来上がって、鶯丸はちょうどいい温度のお茶を淹れた。それをだれにも見つからないようにしながら、中庭の見える縁側まで持って行った。運よく誰にも会わなかった。もし誰かにあったら最後、こんなにゆっくりたい焼き食べてお茶を飲むことはできないだろう。

縁側に腰をかけて足を伸ばす。涼しい風がそよそよと吹きぬけて行った。


「桜かれちゃったね」
「また来年咲くさ」
「そうだね。鶯丸、おひとつどうぞ」


わたしがたい焼きをひとつ鶯丸に差し出すと、鶯丸はそれを持って、じぃっと見つめた。これはどこから食べようか迷っているのかな。わたしはそんな鶯丸を気遣うことなくぱくぱくと食べ始める。


「美味しいよ。食べてみなよ」
「あぁ・・・」
「どう?」


鶯丸は何も言わなかった。いつもみたいに淡々と飄々と何を考えているか分からない顔して食べていたけど、わたしよりも速くたい焼きを食べ終えて、もうひとつもらおうか、と手を伸ばしたから、ああ、美味しかったんだなって。


「鶯丸が淹れてくれたお茶美味しいよ」
「そうか。それはよかった」
「たい焼き美味しいね」
「・・・そうだな」

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