「今日の夕食はなんだ?」


つまみ食い常習犯の鶴丸がやってきた。


「・・・カニクリームコロッケ」
「かにくりぃむころっけ?」
「そう」
「未来の食べ物か」
「うん」


鶴丸がやってきたばかりのころ、わたしが作った料理にいたずらをして、わたしがものすごく怒ってから鶴丸は食べ物にはいたずらをしなくなった。だけど鶴丸が台所へやってくるたびになにかされるんじゃないかとびくびくしてしまう。

鶴丸は腕を組んで「ふぅん」と言った。油と闘っている今のわたしはコンロから離れるわけには行かず、鶴丸を追い払うことができない。


「油で揚げてるのか」
「うん」
「旨そうだ」
「美味しいよ、たぶん」


いつの間にか鶴丸はわたしの隣に立ち、油の中で泳ぐカニクリームコロッケを見つめていた。何を考えているんだろう。鶴丸が「驚きが必要だな」とか言い出さないか怪しんでいるとバットの上に乗せておいた揚げたてのカニクリームコロッケをつまんで、大きな口を開けてつまみぐいをした。


「熱ッッ!!!!」


鶴丸は口を手で覆い隠してカニクリームコロッケの熱さに耐えている。そりゃそうだよ。揚げたてだし、カニクリームコロッケってトロトロしてるのが美味しいんだけど、そのトロトロしているところが一番熱いんだもん。鶴丸の背中をポンポンと叩いてあげる。「ちゃんと食べてね?」とわたしが言うと、鶴丸は大きく首を縦に振る。しばらくするとごくんとカニクリームコロッケを飲みこんで、鶴丸は「こりゃ驚いた・・・」と独り言のように言った。


「口の中火傷した?」
「あぁ。ヒリヒリする」
「つまみ食いするからだよ」
「君が作る料理は旨いからな、つまみ食いしたくなるんだ」
「・・・」


褒められ慣れてないから、いざ褒められるとどうしたらいいか分からなくなる。それに言ったのが鶴丸だ。裏に何かがありそうでその言葉を真っ直ぐ受け入れることができない。返事をしないわたしのことを不思議に感じたのか、「うん?どうかしたか?」とわたしの顔を覗きこんだ。


「ちょ、今揚げ物してるから危ないって」
「返事がないもんだからな、具合でも悪いのかと思って」
「悪くない悪くない」
「ふぅん」
「な、なに・・・」


鶴丸はわたしの目をじっと見つめて、何か言いたげだったけど結局何も言わず、「たまには俺も手伝うか」と袖をまくった。


「ありがとう、助かる」
「その代わりかにくりぃむころっけ、もう一個食べてもいいか?」
「ダメ」
「ちぇっ」


油の中を泳ぐカニクリームコロッケを箸で捕まえてバットに移す。鶴丸はザルにあけたままのキャベツの千切りをお皿に盛りつけてくれている。・・・本当に手伝ってくれるとは思わなかった。わたしが目を離した隙になんかしてくれちゃったりとか、ないよね?ちらりと鶴丸の方を見るといつの間にかわたしの真後ろにいて、「手伝ったぞ!」と誇らしげに言った。


「あ、うん。ありがとう」
「褒美は?」
「え?」
「俺が手伝った褒美」
「えーっと、今何も持ってないからまたあとででいい?」


まさかキャベツ盛り付けたくらいで褒美をねだられるとは思ってなかった。そう言ってもわたしの前からどこうとしない鶴丸。どうしたものかと思っていると「かにくりーむころっけ」と鶴丸は言った。


「ご褒美にカニクリームコロッケが欲しいって、そういうこと?」
「そういうことだ」


わたしは手に持っていたバットをずい、っと鶴丸に押し付けると、鶴丸はさっきみたいに大きな口を開けて、待っている。つまりは食べさせろと、そういうことなんだね?揚げたてのカニクリームコロッケをひとつつまんで、それを鶴丸に向けてあげると鶴丸は学習したのか一気に食べずに半分だけ食べた。


「旨い」
「それはよかった」


ずっとカニクリームコロッケを持っているのも指が熱くなってくる。鶴丸はわたしの手からカニクリームコロッケを取ると、それをわたしに向けてきた。もしかしてわたしに食べろって言いたいの?


「俺が直々に食べさせてやろう」
「え!いいよいいよ!」
「遠慮するなって」


押し問答していてもらちが明かない気がするから、おずおずと口を開けた。熱々のカニクリームコロッケがわたしの口に飛び込んでくる。熱いけど、揚げたてがやっぱり一番美味しいや。


「君の時代でこういうこと、なんていうんだったか」
「こういうこと?」
「あぁ、そうだ。間接接吻」
「!?!?!?」
「ははは」


なんてこと言いだすんだ、鶴丸は。危うく手に持っていたバットを落としてしまうところだった。ああ、軽率だった。

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