なんとかアカペラで歌って、その場はおさめた。帰りの車の中でボクに対してずっと頭を下げ続けている千代がなんだか小さく見えた。ボクが何度も「千代の責任じゃない」と言ってもそれはきかなかった。「わたしが確認を怠ったのが悪いんです。本当に済みませんでした」千代の立場に立ってみれば、こっちのミスで仕事が打ち切られてしまった可能性だってある。そしたらうちは大損害。千代がクビになってしまったかもしれないのだ。


「とにかくいいじゃない、今日はなんとか形になったんだから」
「はい・・・本当にすみませんでした」
「それで、明日の予定は?」
「社に戻り次第先方に曲を送る予定です。一応アレンジャーに依頼しておこうと思ってるんですが、どうしますか?」
「アレンジならボクができるからしなくていいよ」
「承知しました」
「相手の動きを見ない限り何もできないってことだね。じゃあ明日はオフだ」
「そうなります。なにかありましたらすぐ連絡しますので」
「オッケー。明日ちょっとスタジオ借りてもいい?」
「アレンジ考えるんですか?今から聞いてみますね」
「うん」


千代は携帯を取り出して電話をかけた。明日のスタジオの空き具合を聞いているらしい。ボクが忙しいと、千代はもっと忙しくなるんだ。そんなことわかっていた。細い輪郭は今にも壊れてしまいそうで、思わず手を伸ばす。ああ、やっと冷たさを取り戻した手が、千代に触れることでまた熱を帯びて行く。


「美風さん?どうかしましたか?」
「なにも」


電話の最中だったから何の返事もしなかった千代が、電話を切った途端に聞いてくる。どうもしない。どうもしないのに、なぜ、こんなにも触れたくなるのか。可笑しい。他の誰に触ろうとも、そんなこと思わなかったのに、体が熱くなることなんてなかったのに。


「顔が赤いですよ、熱でもあるんですか?」
「顔が赤い?」


熱なんて、出るはずがない。ボクはソングロボ。

だけどルームミラーに映ったボクの顔は、見たことがないくらいに赤かった。


「失礼します!」


千代が手を伸ばしてボクの額に触れる。


「あつ・・・!」


触れられてすぐ、言われた。


「美風さん!すごい熱ですよ!」


可笑しいな、ボクは風邪なんてひくはずがないのに。ボクはソングロボなんだから。

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