頑張り屋の千代のことだから、こんな日が来ることは分かっていたんだ。


「申し訳ありません!!!!」


大きく頭を下げた千代がボクの目の前にいる。その前に苛立ちを隠すことなく全面に押し出しているプロデューサー。納品した楽曲がアップロードされていなかった。故にCMのプロデューサーがその楽曲を聴くことができず、CMの最終打ち合わせが進まないでいる。


「あのねぇ!そっちが今日曲できて聴けるっていうから今日にしたんだよ!?それなのにアップロードされてません、曲が聴けませんってどういうことなの?」
「返す言葉もございません・・・完全にこちらのミスです。すぐに社に戻って・・・」
「それからじゃ遅いって言ってんの、こっちもスケジュール詰めてるんだからさぁ、困るんだよ」
「申し訳、ありません・・・」


どんどん声が細くなっていく千代。深々と頭を下げる千代の横に並んでボクも頭を下げて「すみません」と一言謝ると千代は「これはわたしのミスですから、美風さんは頭を下げないでください」とピシャリとボクに言い放った。


「そんなこと言ってる場合じゃないよ。スケジュール押してるのは事実だから」
「だけど・・・!」
「千代は黙ってて」


頭をあげていまだに怒り心頭なプロデューサーに向かって「このままじゃ話が全く進まない。ボクがアカペラで歌うから、今日はこれで勘弁してくれませんか」と言うと、何かまだ文句を言いたげだったけど、渋々了承した。
横を見ると千代が今にも泣きそうな顔になっていて、ああ、そんな顔も千代は出来るんだなぁって、感心した。色んな表情を見ていたつもりだったけど、まだまだ知らない千代がいるらしい。


「ボクのマネージャーなんだから、しっかりしてよね」
「すみません・・・」


きついことを言ったかもしれない、と思ったけど、これは仕事なんだ。中途半端な事は許されない。だけど、もしこの手違いが疲れからくるものだったのならば、千代には少し休息が必要なのかもしれない。


「明日オフでしょ?ゆっくり休むこと」
「え、でも」
「でもじゃない」


遠くからボクを呼ぶスタッフの声が聞こえる。マイクの準備ができたらしい。アカペラで歌うなんて久しぶりだなぁ。エフェクトをかけないボクの声が、みんなに響くと良いんだけど。
ね、千代のせいだよ。ボクがまさかエレクトロニカ以外の曲を歌うことになるなんて。


「美風さーん!マイク準備出来ましたー!お願いしまーす!」
「今行く」


千代の方を向いて、まだ泣きそうな顔をしているそのおでこをペシンと叩いて


「さもないとボクが千代の部屋押しかけるから」
「えっ!」


千代に触れた指先が、熱を持つ。
こんなの、初めてだ。
誰かに触れて、自分が熱くなるなんて、経験ないよ。

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