次の講義までひとコマ開いてるんだよね。暇になったわたしはカフェテリアに行く。提出期限まだ先だけど、レポートやろうかなぁ。教科書を開いてうーんと唸る。スマホのホームボタンをぽちっと押した。時間だけ表示される。誰からのメールも何もない。


何を期待してるんだろうか、わたし。


ペンケースからシャーペンを取り出して、カチカチとノックする。なるほど全然分からない。お腹すいたなー。お腹すくと頭働かないって言うのは合ってると思う。何もやる気が起きない。ぼけーっと教科書を見ていると文字がどんどん歪んでいく。どこも見てないからだ。


「千代ちゃん」


ガタン、と前の席に誰かが座った。「え」持っていたシャーペンを落としそうになる。「新開、くん」同じ大学なのだから、ここに新開くんがいても何の違和感もないのだけれど、驚いてしまった。いつもと同じように、口にパワーバーを咥えている。


「暇かい?」
「え、っとそんな暇じゃない」
「嘘だぁ。さっきからそこにいるじゃないか」
「ほら、レポートやってるから」


もぐもぐと一本食べきるとポケットからもう一本取り出して口に咥えた。そんなに食べてお腹いっぱいにならないのかなぁ。それにしても美味しそうに食べる。この間の学食でも美味しそうにA定食食べてたし、幸せそうな男だ。わたしのノートを覗きこみながら、「偉いねぇ」と言う。レポートをすることは別に偉くないと思う。新開くんの存在を無視してもくもくと教科書を読みこむ。

グゥゥウウウ


「!!!!!!」


わたしのお腹が突如、大きな音を立てた。恥ずかしさのあまり筆圧がこくなってしまって、ノートを走るシャーペンの芯がボキッと大きな音を立てて折れた。そおっと見る。新開くんは目をぱちくりさせて、わたしのことを見ている。ばちっと目が合って、わたしは急いでそらした。ううう、絶対これ新開くんに聞こえちゃったよね。ううう。恥ずかしい。


「腹減ったんだ?」


新開くんはいたずらっぽく笑って言った。お腹すいてるよ、だって朝ご飯食べてないし、お昼までまだ時間ある。こくりと頷くと、新開くんは咥えていたパワーバーをガブリと噛み切ってわたしに手渡してきた。「食べるかい?」食べるかいってそれ、新開くんの食べかけじゃないですか・・・。


「もう今日の分これしか残ってないんだ」


これしかって、今日まだ始まったばっかりじゃないですか・・・。わたしが受け取らずにいると、新開くんは首をかしげて「遠慮すんなって」と言った。仕方なしにそれを受け取る。ぱくんと食べる。ううん。もさもさしててこれは飲み物が欲しくなる・・・。新開くんはわたしが食べたのを見届けて、「間接キスしちゃったね」と笑った。


「いやそこは思ってても言わないでよ!」
「俺のこと少しは意識してくれた?」
「・・・」
「千代ちゃーん?」
「・・・・・・」
「おーい、聞いてるー?」
「暇なの、新開くん」
「うん。俺も次の講義まで時間あるし」
「自転車以外にもちゃんとしてるんだね」
「失礼なこと言うね」
「そんなことないよ」
「コーヒー買ってくる」
「ごちそうさま」
「えぇ、俺奢るなんて一言も」
「ありがとうね」
「はいはい。…逃げないでね」
「わたしが逃げるような女に見える?」
「うん」
「ひっど!」
「冗談冗談」


新開くんは席を立って、自動販売機へ向かった。ひらひらと手を振る。わたしがどこかに行っちゃわないように時折わたしの方を見て姿を確認していた。逃げないよ、まったく。わたしをどんな人間だと思っているんだか。ふぅ、と溜息をついた。

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