二人でおにぎりを作った日から、ボクはネットで炊飯器のデータを収集している。種類も価格もピンからキリまである。白米のみ炊くものや、玄米も炊けるもの、お粥まで作れる炊飯器まであった。どれが良いのか結局分からずにふう、と息を吐く。


「どうしたんですか?美風さん。溜息なんてついて」


会議室に一人だけ、と思っていたらそういうわけではなかったらしい。いつの間にか千代がいて、ボクの背後からノートパソコンを覗き見た。見られてマズイものではないけど、パタンとノートパソコンを閉じると千代は小さくブーイングをする。


「隠すことないじゃないですか」


振り返って千代の顔を見るとこの間よりもずいぶんと顔色がよくなっていた。おにぎりの効果はあったのかもしれない。千代が一歩離れて、窓際へ行く。千代が遠くへ行ったのを確認してノートパソコンを開く。開いていたウィンドウを消す。さよなら炊飯器の検索履歴。


「いい天気ですねぇ」
「そうだね。ところで千代はこんなところで何してるの?」
「え?あ、受付のお姉さんが美風さんがいらしたのを教えてくれたので、探していたんですよ」
「何のために」
「何のためにって、わたしが美風さんのマネージャーだからですよ」
「・・・そう」


ことあるごとに千代はボクのマネージャーを名乗り、周囲も千代がボクのマネージャーであると認識し、それがすっかり定着しつつある。認めていないのは、ボクだけ。


「ずいぶん来るの早かったですね。取材までまだ時間ありますよ」
「いいの。家にいてもここにいてもあんまり変わらないから」
「そうなんですか?」
「そうなの」


気が着いたらここに足が向かっていた。やらなくちゃいけないことはあるのに、家でもここでもできるって言うのはうそじゃない。・・・でも、ここにいる方がずっと、千代に会えるような気がしたから。


「あ、おにぎり握ってきたんですけど、食べます?」
「食べる」
「わあ、即答」
「じゃあいらない」
「そんなこと言わないでくださいよー」
「美味しいんでしょ?」
「そりゃあ、もちろん」
「じゃあ食べる」
「はい!今持ってきますね!」


ねえ、なんでそんなに嬉しそうなの?

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