「あー今日ね、先輩に着いてモデルさんのヘアメイク担当したんだけど」
「うん」


練習だーと言って、僕の髪の毛を洗うために準備している江川さんは思い出したように俺に話しかけた。お湯の溜まっていない浴槽にしゃがんで、縁に頭を預ける。彼女は仕事でしているように俺の髪の毛をシャワーで濡らして、シャンプーを手に取った。目を開けているのが恥ずかしくなって、目を閉じる。


「今をときめくモデルのキセリョだったんだよ〜」
「!!!?」
「いやーイケメンだったー眼福」
「キセリョって・・・黄瀬涼太?」
「うん。他に誰がいるって言うの」


つまり・・・涼太。他でもない俺の同級生だった涼太のことだろう。たしかに涼太はいわゆるイケメンで、長い間モデルをしているから、それなりの知名度があるだろう。ファッション関係のアンテナの鋭い江川さんのことだ、涼太を知らない方がおかしい。そうなんだ、けど。


「肌白くて奇麗で」
「俺だって白くて奇麗だよ」
「髪の毛染めてるのに痛んでなくて、サラッサラなの」
「俺だってサラサラだよ」
「目が大きくて睫毛長いんだよ」
「・・・(それは敵わない)」
「しかも礼儀正しくて」
「(あの涼太が!?)」
「すごく気さくだったの!」
「そうなんだ」
「うん。はーいかゆいところはないですかー」


わしゃわしゃわしゃ。
髪の毛が泡立っている。
今俺にしているみたいに涼太にもしたの?江川さん。


「ないです」
「じゃあ流しますねー」


この泡を流しつくしたら、今ある心のもやもやもなくなるのだろうか。


「じゃあトリートメントしますねー。って言っても赤司くん髪の毛ツルツルだから必要ないと思うんだけど」
「お願いします」


江川さんの指がするすると俺の髪の毛を通り過ぎていく。こういう風に江川さんに髪の毛を触られているときに、どうしようもない幸せが込み上げてくるんだけど、仕事だから俺以外の男の人にだってやっているんだろう。わかってる。


「今日も何十人と髪の毛洗ってきたけど、赤司くんの髪の毛洗うのが、一番楽しいよ」
「え」
「なーんてね」


驚いて目を開くと、そこには満面の笑みを浮かべた江川さんがいて。無理やり手を伸ばして、江川さんの頭を引き寄せた。


「!!!!」


たまらなく幸せだ。

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