時計に目をやる。
今日は予定がなかったから一日中スタジオ兼自宅に引きこもってパソコンと睨めっこをして打ちこみをしていた。あとはアレンジをいくつか作っておけばいいだけ。納期はまだ先だから焦る必要はない。千代にダメ出しされて何度もやり直して考えて完成させた曲。ラフだけは聴かせたけど、ちゃんと曲になったものは聴かせていない。千代はいつもここでなにやら仕事をしていたから聴く気になれば聴けただろうに、ボクに「聴かせてください」なんて言ったこともなかった。勝手に聴いた痕跡もなかった。この曲を聴いて驚いた顔した千代が見たいがために捻って捻って作った曲。これ聴いたら、なんて顔するんだろう。 君のことが 嫌いだった そんな歌いだしの歌詞を、どんな顔して聴くんだろう。

時計に目をやる。時計の針は7時を指していた。もちろん夜の7時だ。この時間になれば千代はやってくるんだけど、今日は千代が訪れる気配がない。だからどうしたって言うんだ。ここのとこ毎日仕事があったから千代と顔を合わせていただけであって、たまのオフに千代がいなくたって、そりゃ仕事が休みなんだから千代だって仕事が休みなわけでなんの問題もないのだ。なんの 問題も ないのに。ボクはさっきからちらちらと時計を見ては時間を確認して、何時なのかと気にしている。そんなこと必要ない。必要ないはずなのだ。


「シャットダウン」


問題ないのにしている。
必要ないのにしている。

そんな自分が理解できなくて、考えたくなくて、真っ暗な世界へ行くことにした。そろそろプツリと意識が途切れる。明日は昼から仕事があるから、それまでに目が醒めればいい。意識のない世界を、暗闇を泳ぐことは悪くない。


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