いやね、別にね、新開くんを好きになってないですよ。あの後片付けして新開くんが目を覚ます前においとましたから、それからなんの接点もなく過ごしている。広いキャンパスで新開くんを見かけることはほとんどない。自転車部が活動しているところへ行けば見れるんだろうけど、別にね、会いたいわけでもないですし。会う理由もないわけですし。お寿司食べたい。

合コンへ行ったとき、友達は幹事の子しかいなかったんだけど、なにやらわたしと新開くんが付き合ったんじゃないかという噂が流れてしまって、面識ない子からもちょくちょく喋りかけられたりした。わたしに話しかけた女の子たちは揃って「新開くんと付き合ってるの?」と聞いてくる。わたしが「付き合ってない」と答えると安堵したような顔をしてきゃーっと言って去って行く。なるほどみんな新開くんが好きなんですね。


大学の講義を終えて家路につく。電車を降りたところでわたしのスマホが震えた。名前が表示されてないところを見ると、きっと知らない人からの電話なんだろう。んじゃあ出る必要ないや。ほっといていいや。スマホをポケットにしまって駅から出る。またしばらくするとぶるぶるとポケットが震えて、スマホを取り出した。さっきと同じ番号が表示されてる。二度もかかってきたとなると、わたしの知ってる人なのかなぁ。とりあえず出てみるだけ出てみよう。スマホを耳にあてながら電話に出る。電波の向こう側で「千代ちゃん?」わたしのことをちゃん付けで呼ぶ男性の声。たったひとりだけ心当たりがあった。


「新開くん?」
「おーよくわかったな!」
「うん。まぁ。と言うかなんでわたしの番号知ってるの?」
「この間の合コンのときの幹事の人から聞いたんだ」
「えっ。なんで」
「なんでって、好きな子の連絡先は知りたいじゃん」
「えっ」
「今度会おうよ」
「えっ」


つまりさ、わたしのことを好きだと言ってるんだよね、新開くんは。どうするべき?どうしたらいいわけ?こんなにまっすぐ気持ちを伝えられることは経験がないから戸惑ってしまう。頭の中真っ白。悪い気はしない、けど。


「とりあえず、オレの番号、ちゃんと登録してくれよ」
「あぁうん」
「また電話してもいい?」
「うん」
「じゃあこれから部活だから」
「そうなんだ。頑張れ」
「ん。頑張る」


プツリと電話が切れる。切れてもなぜか耳からスマホを離すことができない。何かの余韻に浸ってるみたいに。

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