うちの大学の自転車競技部は強豪だ。そんな彼らと合コンする機会に、わたしは巡り合ってしまった。どんな縁があってのことかはわからない。部活に勤しむ彼らには休日というものがほとんどない。大学の女子たちや近隣の大学の女子たちも彼らと合コンをしたがっている。倍率は高すぎて、なんでわたしが彼らとの合コンに参加することになったかさっぱりだ。わたしは「自転車競技部?よくわかんないけどすごいねー」と言った感じであまり興味がなく、今回のこの合コンだって人数合わせにしか過ぎないと思っていた。とりあえず、友達が参加するついで、呼ばれたから。そんなノリで参加することにしたわけだ。

友達は幹事だから先に居酒屋にいるはず。聞いていたチェーン居酒屋に着いて部屋に案内してもらい、個室の扉を開けるともう一同勢揃いしていた。しまった。えへらと笑うと、唇の厚い男がわたしのことを見て、人差指でわたしのことを指さし、バキューンと打った。


「え」


自転車競技部らしい面々はざわっと一沸きする。どういう意味なんださっきのバキューン。わたしなに、ヒットマンに狙われてるの?怖い。もう一度えへらと笑って空いている端の席に座る。知ってる顔は友達しかいない。膝を抱えて座る。人見知り、ではないんだけど、合コンなんて滅多に来ないからどうしたらいいか分からない。一通りの自己紹介を聞いたけど覚えることはできず、ついに自分が自己紹介をしなければならない時が来てしまった。簡潔に自分の名前を言い、よろしくお願いしますと頭を下げる。うー慣れないコレ。周りの子も、友達も、こなれた感じで自転車競技部のみなさんと喋ったり笑ったり食べたり飲んだりしてるけど、わたし一人だけ浮いている。ぷかぷか。つまらないから一人で食べて一人でお酒を飲む。うん。やっぱりお酒は良いね。ちらりと自転車競技部のみなさんを見ると、食べてはいるがあまりお酒を飲んではいないみたい。運動部だからいっぱい飲み食いすると思ったんだけど、そんなことはなかったようだ。女の子一人がトイレに行くと連鎖反応で複数の女の子がトイレへ行ってしまう。わたしはまだ大丈夫・・・と思い、タイミングをずらしてトイレへ行き、帰ってくると席替えが行われていた。空いている席はさっきとは反対側の端っこの席。お酒を頼み直すべく店員さんを呼ぶと、ついでにオレもと誰かがわたしの近くにやってきた。・・・バキューンとわたしを狙い撃ちしたあの人だった。


「オレ、生ね。千代ちゃんは何飲む?」
「!!!???」
「ん?なに?」
「なんで、わたしの名前・・・」
「だって自己紹介したじゃん。ほら、千代ちゃん何飲むの?」
「えっと、あの、・・・生で」
「じゃあ生二つお願いします」


急に名前を呼ばれたことにびっくりして、一瞬頭が真っ白になってしまった。わたしは全然覚えてないのに。


「千代ちゃんいっぱい飲むんだ。酒強いんだね」
「普通です」
「なんで敬語!?オレ達同い年だよね」
「そうなの?」
「自己紹介何も覚えてないのか」
「ご、ごめんなさい」
「新開隼人」
「しんかい はやと」
「なに?」
「いや、確認しただけ」
「そーか、確認しただけか」
「じゃあ確認ついでにもう一ついい?」
「どうぞ?」
「わたしのこと撃ち殺したの?」
「殺っ・・・え!?」
「あ、殺してはないか」
「仕留めるって 決めたんだ」
「何その仕留めるって」


ビールが運ばれてきて、喉がからからだったことに気がつく。つい喋りすぎてしまったらしい。それは新開くんも一緒のようでゴクリとビールを飲んだ。冷たいビールが喉を通って胃まで染みわたることを感じると、新開くんは口を開いた。


「オレ、レースのときに絶対仕留めるって決めたヤツにバキューンってするんだよね」
「ふうん」
「今日千代ちゃんがココに来たとき、思わずやってしまったんだ」


そんなこと言ったってどうせ他の女の子にも同じことやってるんだろうなぁとか、女の子は寄ってくるんだから選び放題だよなぁとか、卑屈な事ばかり考えてしまって、嫌気がさしてビールをまたぐいっと飲んだ。わたしにつられて新開くんもぐいっとまた飲む。いつしか飲み比べのようなことが始まった。





「・・・もうオレ 無理」


しばらくして新開くんはそう言い、一口もお酒を飲まなくなってしまった。本格的にやばそうだ、これ。ジョッキを持ったままテーブルに突っ伏して新開くんは「う〜〜〜」と唸っている。


「お酒弱いなら無理しない方がよかったんじゃないのかな」
「でも好きなコには強いところ見せたいじゃないか」
「またまた。そんなこと言っても何も出ませんよ」
「何か欲しいから言ってるわけじゃないのに」


そう言うセリフは、わたしじゃなくて他の新開くんを狙ってる女の子に言えば、お持ち帰りだってできるはずなのに。何やってるんだよ、新開くん。

お開きになった合コンで、道路に座り込んだまま立ち上がる気配のない新開くんを横に、わたしはタクシーを待つ。ここからなら歩いても帰れる距離なのに、なぜかみんながわたしに新開くんの面倒を押しつけてどこかへ行ってしまった。どこだよ新開くんの住んでるとこ・・・。新開くんの耳に顔を近づけて「新開くんちはどこですか?」と聞いてみるが「うん」とか「そう」とかそんな返事しかしないから全然会話が成り立たない。ここは飲み屋街。しかも花の金曜日。どこもかしこも人で溢れている。顔を近づけなくちゃ声が届かないからそうしたのに。新開くんは起きる気配なく顔だけわたしに向けた。


「千代ちゃん。オレ、千代ちゃんだけだぜ。女の子にばきゅん したのは」


囁くように 言われるもんだから、柄にもなく体が熱くなってどうしたらいいかわからない。もう今日はどうしたらいいかわからないことだらけだよ。新開くんと同じように座り込み、今日の合コンについて振り返ってみる。どうしたらいいかわからなくなったのは 新開くんにバキューンってされてからずっとだったと 気がついた。


「どうすんの、今日」


体重を預けるように新開くんにもたれかからり、独り言のように言う。ごちんと頭をぶつけると「オレんちくる?」と言われた。謀ったな、新開隼人。





(続かない)

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