千代は相変わらずボクに冷たい。


「美風さん。詞に誤字があります」
「どこ?」
「ここです。泣くと鳴く」
「ホントだ」
「直しておいてくださいね」
「わかった」


それを伝えるだけのために千代はボクの自宅兼スタジオにやって来て、さっさと帰って行く。前は無理やりスタジオの中に入り込もうとしてはセキュリティを作動させていたが、いちいちそれを解除するのが面倒になったボクは千代の姿を確認したら鍵を開けておくことにした。そのことに気がついた千代はしょっちゅうボクのスタジオにやってくるようになるわけだけど・・・長く居座ることはない。言いたいことを言ったらすぐに帰る。これが千代のやり方だ。

ボクはロボットなのに、やはり誤作動と言うものはあるらしく、それを千代に気づかされる。自分でキーボードを打つ時誤字は滅多にないから、注意することなく清書してしまう。気を引き締めてかからないと。

ボクが分かったと返事をしてすぐに千代はこの部屋から出て行ったらしい。監視カメラによると今ちょうど玄関にいるようだ。これから下の階の自分の家に帰るのだろう。それでまたボクのミスを発見したらボクのスタジオにやってきてぼそぼそっと言い、帰る。その繰り返しだ。効率が悪い。スピーカーをオンにしてマイクに向かって言う。「ボクの気が済むまでスタジオにいてくれない?」その数秒後、千代はこの部屋のドアをノックする。


「早いね」
「マネージャーですから」


そう言って千代はソファに腰を下ろし、何かの資料を手にした。君は真面目だね。普通のニンゲンなのに休むことなく働いて大丈夫なの?・・・というかボク、誰かの心配をすることが できるんだ。

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テーマ「人外ファンタジー」
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