何かと理由をつけて東京へ通う日が続いた。ウィンターカップが終わってからと言うもの、月に一度は東京で過ごしていた。すべては江川さんのためである。長く過ごせる月もあれば、とんぼ返りで京都へ戻らなくちゃいけない月もあった。そんな僕のことはお構いなしに江川さんはいつも通りだ。僕のことを実家が東京にあるから、里帰りでもしているんだと江川さんは考えているはず。自分に会いに来てるなんて微塵も考えていないだろう。こんなに悔しい思いをしたのはあまり経験がない。この悔しさをどうすればいいかも分かってない。

毎月毎月江川さんの働いている美容院に来てはいるが、見習いである江川さんはシャンプーをしたり髪を染める手伝いや、パーマの液材をかけたり、パーマの機材をいじったりとそういうことしかしていない。肝心の髪の毛を切ると言うことはまだしちゃいけないみたいだ。僕は江川さんに髪の毛を切ってもらいたいのに。


「カットの予約をしたいのですが」


東京へ向かう途中、江川さんの働いている美容院に電話をかけると、電話越しで江川さんの声が聞こえて、鼓動が少し早くなったことを感じた。電話越しの江川さんの声はやっぱり実際聞くものとは違っていて、これもまたいい。「カットのご予約ですね。お名前をお願いいたします」「赤司です」「あ!赤司君!」「覚えていてくれたんですね」「当たり前じゃないですか」僕はあなたの事、声聞いただけですぐ分かるけど、あなたは僕のこと、声を聞いただけじゃわからないんですね。


「いつもありがとうございます。東京へ帰ってくるんですね」
「はい。そうです」
「いつ頃お帰りになるんですか?」
「今日です」
「わ!もうすぐ帰ってくるんですね」
「はい。それで明日京都へ戻ります」
「えぇ!?」
「なので今日カットしていただきたいのですが」
「今確認しますね。・・・すみません。今日は予約がいっぱいで」
「江川さん」
「はい?」
「江川さんは空いてるんじゃないですか?」
「えっと、その、空いてます けど。わたしはまだ見習いで」
「何時だって構いません。僕は江川さんに髪の毛を切ってほしいんだ」


いつか 声を聞いてすぐに僕だってわかるように するからね。

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テーマ「人外ファンタジー」
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