やってきました登山。集合時間ぎりぎりに着いてクラスのみんながいるであろうバスに乗りこむ。どこの席も空いていなかったが、花子さんの隣だけは空いていたのでそこに座る。ちゃんと来たんだ。一安心。


「おはよ、花子さん」
「おはようございます」
「来ると思わなかったわ」
「遅刻ギリギリの高尾さんには言われたくないですね」
「すんませんでした」


遠足気分だからなのか、みんな朝からテンション高い。昨日夜更かししたせいでちょっと眠たい俺にはそのノリに着いていけない。ま、たまにはいっかこういうのも。瞼を閉じるとバスの心地いい揺れのお陰ですぐに睡魔が訪れてくれた。





「高尾さん、降りますよ」


体を揺さぶられて目が醒めた。誰が起こしてくれたんだろうと眠気眼でその姿を探す。・・・なんだ花子さん、意外と可愛いんじゃん。


「山がわたし達を待ってますよ」
「いやだなぁ」


バスを降りるとそこには山々が広がっていて、今からこれ登るのかよとがっくり肩を落とす。うわぁ登りたくない。俺の班のみんなが集まり、いざ山に登り始める。・・・・・・・花子さん体力なさすぎ!!!俺の班は先頭からだいぶ離されてしまっていて、このままだと登頂する予定時間よりも大幅に遅れてしまうことになる。こりゃまずいわ。「先行ってて。で、先生に遅れるって言っといて」と班のみんなに告げる。花子さんは俺の言葉に耳を傾ける体力も残っていないようだ。班のみんなはこくりと頷いて、スピードアップする。困ったな。


「大丈夫?花子さん」
「だ、だいじょうぶ」
「俺も一緒に登るからさ、頑張ろ」
「もうすでに、頑張って、ます」
「だ、な」


いやきっついわこの山。来年もっとすごいの登るんだろ。うわーやってらんないよこれ。隣を見るとだらだらと汗を流しながら花子さんは重い足を動かしている。髪の毛が頬にくっついていて気持ち悪そうだ。その髪の毛を払いのける体力もないようだ。いったいなんで花子さんは急に学校に来る気になったんだろ。なんで山登ろうと思ったんだろ。必死な花子さんの横顔を見て、そんなことをぼんやり考えていた。途中、先生が待っていてくれたようで先生と合流し、三人で山頂を目指す。先生と俺は喋りながら登っていたが、花子さんにそんな余裕なんてなく、次第に口数は少なくなっていく。登頂する頃には一言も喋っていなかった。


「つ い た ― !」
「つ、つきまし た」
「大丈夫か中里」
「だ、大丈夫です」
「そうか。ちょっと他の先生に連絡するから、お前らはここでお弁当食って待ってろ」
「はーい」


彼女は地べたにべたりと座り込んだ。お茶の入ったペットボトルを渡すと彼女はそれを受け取り、「・・・キャップ、あかない」キャップ開けることに苦戦をした。俺がキャップを開けてあげると「ありがとう」と言い、がぶがぶと勢いよくお茶を飲む。お茶を飲み干し満足したのか、今度はごろんと仰向けになった。


「天気、いいですね」
「ホントだ」


仰向けになった花子さんには青空が良く見えるんだろう。俺も上を向くと、そこには視界を遮るものがなにもない、大きな空が広がっている。


「ね、なんで登山に参加したの?」
「高尾さんがいたから」
「俺ェ?」
「・・・いや、高尾さんがうちに来てくれたから?」
「ギャハッなんで疑問文なんだよ」
「自分でもわからないけれど、山、登ってみたくなったんです」


先生が戻ってきて「早くメシ食って降りるぞー」と言った。先生も明日筋肉痛になるだろうね。間違いない。もちろん花子さんも。下山も問題なく進み、結局俺と花子さんは一番最後になってしまった。帰りのバスではみんな爆睡していたけど、登頂してからおかしくなってしまった心臓のせいで俺は眠れなかった。もちろん花子さんもぐっすり眠っていた。

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