朝練が終わって教室についたら教室内がざわついていて、入ることを躊躇う。空気の読まない真ちゃんはそんなことお構いなしにガラリとドアを開いた。ドア側の一番後ろの席。俺の席の隣。見知らぬ女の子が座っていた。


「おはようございます、高尾さん」
「あれ、花子さん?」


見知らぬわけじゃなかった。髪の毛を一つに縛って、あんなに長かった前髪はいびつなぱっつんに切りそろえられた花子さんが座っている。ずっと登校拒否をしていた花子さんがついに、ついに、学校に来た。なんで、って、ああ今日はオリエンテーションだったっけ。俺と花子さんが喋ったことにクラス一同驚く(真ちゃんは冷静だったけど)。ガタンと自分の机に荷物を乗せて椅子に座ると花子さんは「隣の席だというのは本当だったんですね」と言った。


「うん。おはよ、花子さん」
「オリエンテーションには出ないといけないので来ました」
「俺は花子さんが登山に行くっつーのに驚いてるよ」
「運動不足なので」
「毎日学校くれば体育あるよ」
「毎日運動する体力はありません」
「なんだそりゃ」


ヒソヒソと話声が聞こえる。「幽霊が学校来た」「てっきりもう学校辞めたのかと思ってた」「来ると思ってなかった」とかとか。聞き耳立ててるわけじゃないけど、ヒソヒソ話って意外と耳に入るもんなんだね。花子さんはそのヒソヒソ話を聞いている様子はなく、背筋をしゃんと伸ばして黒板を見つめている。


「大変です高尾さん」
「なんですか花子さん」
「わたし、ノートとか教科書全部持ってきてません」
「何しに学校来たんだよ」
「登山のオリエンテーションのために」
「ギャハッ」
「家帰ってもいいと思いますか」
「ダメだろ。帰ったら二度と花子さんは学校来ない気がする」
「そんなことありません」
「ルーズリーフやるし、教科書見せてやるから今日はいいじゃん」
「わかりました。ありがとうございます」





登山は全校生徒でするもので、学年ごとに登る山が違う。三年が一番キツイ山に登るんだそうで、一年はまだ軽い山に登る。軽いって言っても登山だから、帰宅部の奴らはきっと筋肉痛になるんだと思う。真面目に部活出てる俺には無縁の話だけど。


「登山の際、グループを組んでもらうことになるが、今の席の六人班のグループにする」


先生がそう言うとあちこちから「えー」「やだー」とか声が聞こえてくる。まあそりゃ、仲のいい人がグループにいなかったら超つまんねぇ登山になりそうだしな。どっちみち登山はそんなに楽しいもんじゃないと思う。だから別に誰が同じグループでもいい。・・・って俺、もしかして花子さんと同じ班なんじゃね・・・!?妙な焦りを抱いて俺は後半の先生の話、全く聞いていなかった。大丈夫。部活のとき真ちゃんに聞いておくから。

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