ふわふわしてる。なんだかあったかくて、とってもいい気持ちだよ。前にもこんな風に思ったことがあったなあ。確かその時は、折原くんと一緒に帰ってるときで、わたしが勢いよく電柱に頭ぶつけて、それで転んだ時。折原くんにおんぶしてもらったんだよね。わたし短期間に二回も同じこと繰り返しているんだ。運がないように思えたけど、こんな風にふわふわした良い気持ちになれるなら、実はついてるんじゃないの、わたし。ん、でもおんぶしてもらったってことは・・・





Act08 だれもしらない





また折原くんの機嫌が悪くなってしまうんじゃないだろうか!
ガバッと勢いよく起きると、そこにはよく見なれた景色があって、わたしの部屋だとわかるまでに時間はかからなかった。しかし、わたしの部屋にいつもないものがある。

「よかった、目が覚めたんだ」
「あっれ、折原くん?」

わたしのベットの横に、なぜか折原くんがいた。おかしいなあ。わたしは、たしか図書館に行くんでてくてくと歩いていたはずなんだけど。折原くんと会えるといいなぁなんてフンフン鼻歌歌ってて、それで、あ、そうだ。見つけたんだ、折原くんを路地裏みたいなところで、お兄さん方といがみ合っていたんだよね。で、わたしがやぁぁああーーー!!と突進したところ、転んだと。またわたし、折原くんに多大なる迷惑をかけてしまったんみたいだ。というか、折原くん、無事!?わたしは慌てて折原くんの方を見て、隅々まで確認する。なんかヘンタイみたいだけど、そうしないと気が治まらなかった。もしわたしのせいで折原くんがメッタメタにされてたら、どうしよう、わたしはどうやって償えばいいんだろう。ん?でも折原くん、全然怪我してないみたいだ。ピンピンしてる。良かった。きっと喧嘩、しなかったんだね。話し合いで、平和的解決をしたんだね。安心しました。

「君は、また転んで、気を失ってたんだ」
「あ、あはは・・ごめんね、また迷惑かけちゃったみたいで」
「うん。本当にね」

本当にすみませんでした、ごめんなさい。わたしは深々と頭を下げて折原くんに謝った。ごめんなさいと何度も繰り返し言ってくうちに、自分がどんなに足手まといになっていたか思い知って、布団の中に隠れたくなる。

「俺が負けるとでも思っていたの?」

思ってましたごめんなさい。平和島くんといつも追いかけっこみたいな喧嘩して逃げ回ってる折原くんを見てたら、負けるわけないと思うのが当然なのかもしれないけど。だってお兄さん数人VS折原くん一人だったら、折原くんの方が負けそうだと思っちゃうじゃない。でもそれ言うと折原くん怒りそうだから言わない。ぎゅっと毛布を握りしめてるこぶしを見つめて黙ると、折原くんがはぁと溜息をついて、わたしは悲しくなった。わたし、呆れられてるんだろうなぁ。中途半端に出しゃばって、結局迷惑かけて、だめじゃない、わたし、とってもかっこわるい。好きな人には可愛いだとか、すてきだとか、そう言う風におもわれていたいのに。呆れられるなんて、最低もいいところだ。折原くんは追い打ちかけるのが好きなのかな?「心配かけさせないで」「ごめんなさい」もうわたしはごめんなさいしか言えなくて、ちゃんと折原くんの方向けない。怖い、嫌われたりしたら、すごく怖い。もう嫌われているのかもしれないけど、折原くんを見るのが、とっても怖い。

「俺は、負けたりしないから、傍から見て危なそうな局面に遭遇したとしても、絶対に声かけないこと。いい?」

ううん、よくない。負けたりしなくても、たぶんわたしは絶対に声をかけるだろうし、声かけるだけじゃ足らずに多分折原くんを救いに走りだすと思う。足手まといになるの、分かっていながら、そうせずにはいられなくなる。折原くんが痛い思いをするのが嫌だし、折原くんが血を流すのが嫌だし、折原くんが折原くんが折原くんが

「不満そうな顔しないで、万が一君に何かあったら」折原くんはそこまで言うと口をつぐんで、なんでもない、と付け加えた。わたしに何かあったら、折原くんはどうするんだろう。万が一、折原くんに何かあったら、わたしは泣いて泣いて泣いて泣いてしまうんじゃないかなぁ。どうしてわたしこんなに折原くんが好きなんだろう。馬鹿みたいに繰り返して思うんだ、折原くんが好きだって。チラ、と折原くんの方を向くと、なんだか優しそうな顔をしていて、わたしの視線に気がついたのか、林檎みたいに顔を赤くした。折原くんもふつうの男子高校生なんだね。喧嘩が強くても。

「折原くん」
「何?」
「迷惑かけちゃってごめんね」
「それはさっきも聞いたよ」
「うん。・・あのお兄さんたちは、お友達なの?」
「友達?まさか」
「・・・喧嘩、したの?」
「した」
「勝ったの?」
「勝ったよ」
「またおんぶしてくれたの?」
「した」
「わたしのこと、嫌いになりましたか」
「どうして?」

だって、わたしが学校をズル休みした日、とても機嫌が悪かったってミヨちゃんから聞いていたから。わたしをおんぶして、わたしのあまりの体重の重さに機嫌が悪くなったのかと思って。むしろわたしが多大なるご迷惑をおかけしてしまったことに対して機嫌が悪かったのかもしれない。折原くんに嫌われるための、思い当たる節はたくさんある。下校中に電柱に頭ぶつけて倒れちゃうし、おんぶで家まで送ってもらうはめになったし(なんでわたしの家を知っていたんだろう)、今日だって、たくさん、たくさん、迷惑をかけた。迷惑な女と思われたに違いない。嫌われる要素は、たくさんある自信がある。なんて悲しい。本当は好きになってもらいたいのに、折原くんの一番のおんなのこになりたいのに。どうして反対のことばかりしちゃうんだろう。

「めいわくばかり、かけているから」
「君は、俺のことを知らなさすぎる」

確かにそうだ。わたしは折原くんのこと、ほとんど知らない。名前と、この間やっと何座か知った。血液型も、身長も、体重も、口癖も、趣味も、住所も、得意科目も、不得意科目も、好きな食べ物も、嫌いな食べ物も、家族構成も、昨日の夜何を食べたのかも。知らないことだらけだ。だって、お話するようになって、まだ数週間しか経ってない。

「君の言う迷惑は、俺にとって全く迷惑じゃないから」

あれ、さっきは迷惑だって言ってなかったっけ。折原くんは、よくわからない。分からないことが多すぎる。知らないことが多すぎる。折原くんは、やさしいなぁ。こんなわたしに情けをかけてくれるの?でもお情けならいらないよ。そんなのちっとも嬉しくない。なんでわたしにこんなにやさしくしてくれるの。なんで迷惑だと思わないの。折原くんは、どうしてわたしが目を覚ますまで、ここにいてくれたの。今日は三連休の初日。いっぱい遊ばないと、時間がもったいないでしょ?

わたしの知ってる折原くんは、とてもやさしくて、でもそのやさしさが本当のやさしさなのか、どうなのか、見えない人。顔が、とてもきれいな人。手モデルになれるくらい、指がきれいな人。頭がよくて、頭の回転も速い人。喧嘩が強くて、逃げ足の速い、わたしの好きな人。






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