鼻歌を歌いながらお風呂に入りました。だからちゃんと学校行きます。昨日はさぼったような形になってごめんなさい。担任怒らないでね。夢の中で折原くんにまたおんぶされた。折原くんの背中の体温を思い出したような気がする。それだけでなんだかものすごく照れてくるんですけど・・・!どうしよう、恥ずかしくて折原くんの顔見れないかもしれない。





Act06 千里の道も一歩から





あああぁぁああ緊張するうぅ。一昨日おんぶされちゃったわけだし、多大なるご迷惑をおかけしたわけだし、申し訳なくて申し訳なくて、とりあえず開口一番謝ろう。おはようよりも先に謝ろう。ミヨちゃん曰く、折原くんは機嫌が悪いみたいだから、機嫌が悪化しないように、ちゃんと謝ろう。そうしよう。教室に入って軽く見回すとまだ折原くんの姿はなかった。自分の席まで行き、机に鞄をひっかけて椅子に座ると、ミヨちゃんが話しかけてきた。

「おはよう」
「おはよー、昨日どうしたの?」
「ちょっと具合悪くって」
「もう平気?」
「うん。元気元気」

ミヨちゃん美人だなー。ミヨちゃんは美人だけど、それを鼻にかけてなくて、サバサバしてて、みんなに好かれてる美人さんだ。一年生の時に同じクラスになったのがきっかけで、とても仲良しなのだ。ミヨちゃん見てるだけで癒されるのはきっとわたしだけじゃないだろう。髪の毛長くて、軽くウェーブしている。ぱっちりおめめに、通った鼻筋。肌なんてきめ細かくて、きっとミヨちゃんの前世はリカちゃん人形だと思う。可愛くて、美人。ずるいなあ。頭は小さくて、手足は長い、おっぱいも、大きい。いいなあ。

「そう言えば、昨日折原くんが機嫌悪かったって、」
「そうなんだよね。機嫌が悪いって言うか、雰囲気が悪いって言うか。いつも通りなんだけど、どこか違ってて、口じゃ上手く伝えられないんだけど・・・」
「今日も機嫌悪かったらどうしよう・・・」
「アミ隣の席なんだもんね・・・」
「そうなんだよ。どうしよう、怖すぎる。機嫌が悪いのはきっとわたしのせいだ」
「え?折原くんと何かあったの?」
「えっううん!なんでも!なんでもないよ!」
あの日のことは内緒にしたい。わたしが電柱にぶつかって転んで頭打ったのが恥ずかしいからじゃなくて、折原くんと一緒に帰ったってことを、秘密にしたいから。二人だけの秘密にしたいから。だから、言わない。もしかしたら折原くんは言いふらしてるかも知れない。そうだとしても、わたしは断固として言わないって決めた!
しばらくミヨちゃんと話していると予鈴が鳴り、ミヨちゃんは自分の席に戻った。わたしは机からごそごそと教科書とノートを出し、隣の席に目をやる。折原くん、来てないなあ。昨日はちゃんと来てたんだもん。だからきっと今日も来るはずだ。わたしのことが嫌になって、隣の席が嫌で、登校拒否とかそんなのないよね?もしそうだとしたらわたしかなり落ち込む自信がある。どうかどうか、一限が始まる前に折原くんがやってきますように!・・・・・なんて思ってたけど、本鈴が鳴っても折原くんが姿を現すことはなかった。折原くんがいないってだけで、授業がものすごくつまらなくなってしまった気がする。折原くんが隣にいても、わたしは構わず昼寝をしてしまったりしてたけど、折原くんが隣にいることでドキドキしたり、嬉しくなったり、たまに折原くんのこと盗み見て、退屈な授業もこなしていたことに気がついた。片思いだけど、どうやら折原くんはわたしの生活の一部に入りこんでいるようで、どうやっても折原くんを追い出すことはできないみたい。追い出したくもない。先生の言葉も頭に入ってこなくって、黒板の文字をノートに書き写すのもやる気が起きなくて、時間だけがただただ流れて行った。

「木村さん」

どこからか声が聞こえて、わたしはあたりを見回す。すると窓の外に、なぜか折原くんがいた。(だからどうして折原くんはそんなところから登場するんだろう。この間もそうだけど。)先生が黒板に字を書いている隙にわたしは窓のカギを開けて、折原くんを教室に入れた。その間五秒足らず。先生に気がつかれた様子もなし。折原くんはいつもと変わらない笑顔で、「おはよう」とわたしに言った。わたしも「おはよう」と返したところで、大事なことを思い出した。わたしは謝らなくちゃいけない。

「折原くん昨日はごめ「怪我、大丈夫?」
「へっ?」

折原くんがわたしの言葉をさえぎって質問してくるものだから、わたしはあっけに取られてしまった。謝りたかったんだけど、ごめんなさいとちゃんと言いたかったんだけどな。

「うん。大丈夫。もう全然痛くないよ。折原くんには迷惑かけちゃって、ごめんなさい」
「迷惑?そんなことないよ」

折原くんはやさしいなぁ。奴隷が50人いるとか、どこかの社長を言いなりにしているとか、ナイフを隠し持っているとか、人を騙すのが上手だとか、言われてるけど、わたしの知ってる折原くんは、とってもやさしい人なんだ。百聞は一見にしかず、かもしれない。わたしが見ていないところで、折原くんはナイフを誰かに向けているかもしれない。わたしが見てないだけかもしれない。わたしの知ってる折原くんが、わたしの好きな折原くんだ。でももし本当に、奴隷が50人いて、社長を言いなりにしていて、ナイフを隠し持っていて、人を騙していたとしても、わたしはやっぱり折原くんが好きなんだろうなぁと思う。どうしてこんなに好きか、自分でも不思議だけど、とってもとってもとっても、大好きなんだ。

「昨日学校来なかったから、心配してたんだ」
「ごめんね。おぶってもらったみたいで、重かったよね」

心配?
折原くんが、わたしを?
社交辞令かもしれないけど、折原くんは「重くなんてなかったよ」と言い、また笑った。よく笑う人だ。本心で笑ってるかどうかは読めないけど、折原くんが笑うと、なんだか嬉しい。折原くんと目が合うとどきどきするけど、折原くんと喋ると、緊張するけど、ちゃんと、会話できてるよね。ついこの間の、会話皆無よりも、ずっと進歩してるよね。この調子で、もっと折原くんに近づけたらいいなって、思うんだ。






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