結局数学の再テストはありませんでした。なぜならわたしを除く再テスト者みんながさぼったからです。ラッキー☆なんて思いながらルンルン気分で校舎を出たらそこに折原くんがいて、「待ってたんだ」と言われた。初めて話しかけられた時みたいに、わたしはぶんぶんあたりを見回して、それからやっと気付く。折原くんはどうやらわたしを待っていたらしい。





Act04 最下位のラッキーパーソン





そしてなぜか一緒に帰ることになったのですが。なんで折原くんはわたしのことを待っていたんだろう。一緒に帰るくらい、仲が良いわけじゃないし、一緒に帰る約束をしていたわけじゃない。もしかしたら再テストがちゃんと行われて、わたしが校門に行きつくまでの時間がもっと遅くなったかもしれなかったのに、それでも折原くんはわたしのことを待っていたのだろうか。わからない。たぶんたまたまわたしが早く帰れることになったからじゃないのかな。帰る時間がものすごく遅くなったら、たぶん、折原くんは先に帰っていただろう。わたしラッキーだ。テストの点は散々だったけど、わたしラッキーだ。ついてるついてる。気づいたら「ついてるついてる」と口にしていて、折原くんに「どうしたの」と聞かれてしまった。ゴメン、なんでもないです、ただの独り言です。
折原くんはどこに住んでるのかな。わたしは学校の意外とすぐ近くなんだけど。もしかして正反対かなぁ。正反対だったら遠回りになりかねないよね。

「あの、折原くんちってどこらへんなの?」
「あっちの方」

折原くんが指をさしたのは、まさしく、わたしの家のある方向で、ほっと胸を撫で下ろすと、折原くんは歩き出した。つられてわたしも歩き出す。ああ、なんかこんなのゆめみたいだ。二年前に好きになった人と、片思いの人と、一緒に並んで歩いている。はじめてみたときから、好きでした。二年前より少し大人びた横顔に、きゅんとなって、強く目をつむると、

「木村さん危ない!」

折原くんの声にはっとして目を開けると、ものすごい勢いで電柱にぶつかりました。よろめいて、転んで、ゴン、と頭をコンクリートに打ちつけて、さっきまで幸せだったのに、なんだか一気に真っ暗になってしまった。今日のわたしはラッキーでついてるはずだったのになあ。頭って打ちどころ悪いと死んじゃうんだって、わたし死んじゃうのかなぁ。それはない。折原くんに好きになってもらうまで、死ぬ気、ないよ!こんなの、痛くないよ、「大丈夫」ちょっとくらくらしてるけどね。立ち上がると、膝から血が出ていて、なんだかとっても恥ずかしくなった。すれ違う人に見られてる気がして、なんだか自分がとてもみっともなく思える。さっきまで折原くんの隣にいられて嬉しくてどうしようもなかったけど、今はもうただ恥ずかしくて、もし転んだわたしを笑う人がいたら、折原くんとは五メートルくらい距離を取りたいです今すぐに!わたしのせいで(なんておこがましいかもしれないけど)折原くんが笑われたりしたらそれは、すごく、いや、だ。というかさっきの焦った折原くんの声、聞きなれなくて、ちょっとおもしろかった。これ言ったら、折原くん怒るかな。

あ、やっぱり大丈夫じゃないかも。本格的にくらくらしてきちゃった。痛みを感じるところに手を当てると湿っているというか、ぬるっとしていて、気持ちが悪い。赤い。言わずもがな、これは血だ。折原くんの、学ランといっしょだ。一つだけ違うのは、これは自分の血だっていうこと。(だって折原くんの学ランの血は、たぶん折原くんの血じゃないもん)頭から血が出てるよ、わたし。生まれて初めてのことだ。
目の前がちかちかしきた。今日の朝の占いのことを思い出す。わたしの星座は最下位だった。ラッキーパーソンはおひつじ座の人って言ってた気がする。「折原くん何座?」「おひつじ座。それどころじゃないよ、血が」「あはは、だいじょうぶだいじょうぶ」たぶん、今日の再テストがなくなったのも、折原くんと一緒に帰ることができたのも、折原くんがおひつじ座だからじゃないのかな。そうだったら嬉しいな。血なんて、噂の中の折原くんなら、見慣れているはずなのに、珍しいよ、折原くんが、そんな必死な顔してるの。わたし、お隣さんだけど、初めて見るかも、その顔。でもやっぱり綺麗だね、おりはらくん。






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