折原くんってさ、どんな人なのかな。わたし、ひとめぼれ、だったからいまいちどんな人か分かんないんだよね。そりゃ、ずっと目で追っていたけど、それだけだし、調べるみたいなストーカーまがいなことはしていない。ただ、すきなだけなのだ。ただそれだけなのだ。好きって 難しいね。ひとめぼれだから、外見を好きになったのかなぁと考えてみたんだけど、外見だけ好きだと思ったら、きっとすぐに冷めてしまうものだと思うし、わたしの気持ちは冷めていないし、じゃあなんでわたしは折原くんを好きになったんだろう?なんで折原くんじゃなくちゃいけないんだろう?





Act03 好きに理由なんていらないと言うけれど




折原くんはとてもきれいだ。美人って言葉が似合うおとこのひとだ。華奢で、手足が長くて、髪の毛がサラサラで、睫毛が長い。一見普通の人なんだけど、喋ってみても普通なんだけど、時折見せる、ナイフみたいな、出刃包丁のような、刃物のような、そんな表情が、そんなナカミが、ぞくっと背筋を冷たくさせる。それに気がつかなかったら、折原くんはごくごく一般的な来神の生徒、なんだろう。・・・なぜか学ラン着てるけど。来神の正しい制服は、ブレザーだ。男女ともに。学ランなんて着てるのは折原くんくらいなもので、とてもよく目立つ。登校する時も、全校集会のときだって、とてもよく目立っている。そして似合っている。黒い髪の毛に、黒い学ランに、赤いインナー。なんで折原くんはそれを着ているんだろう。それを選択して、それを着ているってことは、つまり、好きだから。学ランが好きだから。そう思ってたんだ。「なんで俺が学ラン着てるかって?」「それは」「血が目立たないからだよ」くっと喉で笑った折原くんがこわい。そして同時にその血が折原くんのものでないことを願った。
折原くんはとても頭が良い。ずる賢くもある。でも本当に頭がよくて、テストの順位だっていつも10番以内に入っているし、どんな問題も、先生に指されてもすらっと答えちゃうし、その答えも合ってるし、抜き打ちテストの点だってすごくいいし、宿題は五分あれば終わってしまう。折原くんは頭の回転も速いみたいだ。わたしとは大違い。あと、折原くんはきれいな字を書く。さらさらさら〜と、角ばってはないんだけど、なんていうんだろう、行書体?みたいな字。この間の抜き打ちテストのとき、採点は隣同士、交換して行ったんだけど、わたしが名前書き忘れてたら、折原くんがそれに気づいて、わたしの名前を書いてくれた。なんだか照れくさくて、それに折原くん、字がきれいだから、わたしの文字を見られることすら、恥ずかしくなってしまった。わたしも字がきれいだったらよかったのに。
折原くんは、お世辞がうまい。きっと折原くんは世渡り上手だとおもう。だからわたしはちょっとのことで浮かれたり、沈んでしまったりする。折原くんは本心でなくても、きっと本心のことのように喋ったりできるんだろう。「木村さんの字、かわいいね」嬉しいけど、わたしは自分の字を可愛いとも、綺麗だとも思ってないから、一瞬喜んだけど、やっぱり悲しくなった。わたしが自分の字に自信を持っていたら、きっと両手をあげて喜んでいたんだろう。そして、わたしの抜き打ちテストの点は散々でした・・・。ハハ、放課後再テストだって。抜き打ちテストのくせに、再テストとかさ、どうなのこれ、ひどいひどすぎるよ。ただでさえ数学嫌いなのに、そのうえ抜き打ちテストとか。準備もなしに良い点取れるわけないじゃないかー!




「あれ?もしかして再テストってわたしだけ?え?嘘でしょ?」

抜き打ちテストの再テストはどうやらわたしだけだったようで、放課後教室に残っているのはわたししかいない。あれー?わたしってそんなにだめな点数だったっけ・・・。あ、もしかしてあれか、みんなズルして帰ったのか、再テストをさぼったのか。ひどい!ひどすぎる!わたしもできることなら帰りたかった!でもどうやらわたしはまじめらしい。まじめに、数学の先生が来るのを待っている。とりあえず最後の悪あがきでもしようかな。机から数学の教科書を取り出し、パラパラと眺める。眺めたところで公式なんて頭に入るはずがなく、数字を見ることが嫌になったわたしは、折原くんがいたところを、見てしまった。わたしと折原くんは隣の席だけど、きっと折原くんが見てる景色は、わたしとは全然違うんだろうな。身長の差っていう意味もあるけど、折原くんの目には、きっとわたしには見えないものが、見えているんだろう。それと同時に、わたしにしか見えない景色があるんだよ。たとえば、折原くんのこと、とか。自分のことは、見えないじゃないか。そりゃ、手とか、足とか、部分的なものは見えるけど、全体は見えないじゃないか。わたしには見えるんだよ。つまりわたしが言いたいのは、折原くんは折原くんで、わたしはわたし。だからわたしは折原くんを好きになったということなのです。

「あれ、木村さん?」

どうしてここで折原くんがやってくるのか分からないけど、折原くんがなぜか窓から登場した。ドアじゃなくて、窓。わたしたちは三年生で、教室は三階にある。バルコニーなんてない。どうして、三階の、窓から、折原くんがやってきたのだろう。おかしい。あぁ、そうか、折原くんは空も飛べるのか。すごいね。

「数学の再テスト、わたしだけだったみたい」

アハハ、と笑ってみせると、折原くんは制服をパンパンと叩いてほこりを落とし、「そう言えばテストの点、散々だったもんね」と言った。その言葉がぐさっとわたしに突き刺さって、泣きたくなった。せっかくこの間折原くんに数学の宿題教えてもらったのに。解き方も教えてもらったのに。どうしてわたしは数学がこんなにも苦手なんだろう。

「今度、教えてあげようか」
「本当?」
「もちろん」

折原くんが、あまりにも優しく笑うものだから、折原くんの怖い噂とか、よく喧嘩している平和島くんのこととか、赤いTシャツについてるどす黒い染みとか、そう言うのぜんぶ吹っ飛んじゃって、なんかよくわかんないけど、やっぱり好きだなぁと思った。






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