わたしは好きな人がいる。その人は周りから一目置かれているような存在で、怖い噂が後を絶たない人なんだけど、わたしは好きになってしまいました。それはもう勝手に。身勝手に。自分勝手に。片思いをして、もう二年経つ。そんなわたしに転機が訪れたのだ。





Act01 チェンジ ザ マイワールド





わたしの好きな人――折原くんとは一度も同じクラスになったことはない。それなのになぜわたしは折原くんを好きになることができたのか。答えは簡単。一目惚れ。入学式の日、わたしは彼を「見つけた」のだ。運命とか、赤い糸とかは信じていない。もしそれが用意されていたのなら、わたしは二年間も片思いなんてしなかっただろうし、片思いをしていても何かしら接点を持つことはあっただろう。しかし皆無。皆無なのだ。接点、ましてや会話をしたことすらない。同じクラスにも、委員会が一緒になったことも、廊下でぶつかったことも、すれ違いざまに物を拾ってもらったことだって、ない。たぶん彼はわたしのことを知らないだろう。だって接点ゼロだし、わたしは目立つような存在でもない。こんな特徴のない人を、知ってなんかいないはずだ。しかし、今年度はもう違う。接点ゼロは卒業です。高校生活最後の年、折原くんと同じクラスになりました。この恋心は誰にも言ったことがない。言ったところで友達「やめておきなよ」と言われるのは目に見えているので。社会の裏側に片足突っ込んでるとか、とある会社の社長を言いなりにしているとか、いつもナイフを持ち歩いているとか、人を騙すのが巧いとか、奴隷が50人くらいいるとか。どこからどこまでが真実か分からないような噂を持ってる折原くん。顔はいい。だけど、そんな折原くんを好きになる人が世界中に何人いるのかな。できることならばわたしだけだったらいい。世界中にも、来神高校にも、わたしよりももっとずっと可愛い子も、綺麗な子も、いるんだから。もしその人たちがわたしのライバルってことになってしまったら、わたしが負けるのは火を見るより明らか!おっぱい小さいし、背も高くない、モデルみたいに手足も長くない。勝てる気がしない。

同じクラスになったからと言って、そうそう近づけるわけじゃないことを知りました。そりゃそうだ。だって席だって出席番号順だから、前後左右になれませんでした。そりゃそうだ。折原くんは廊下側の一番後ろの席。わたしは折原くんよりも前の席だから、ちくしょう、授業中にチラ見することすらゆるされないのか・・・!って悲しんでいたら「じゃあ席替えするか」え?担任なに言ってるの?「出席番号順で並んでてもつまらないしな!」ワハハというかガハハと笑った体育教師の担任は前々からその気だったのか、くじの準備をしていた。神様!仏様!お釈迦様!もう誰でもいい、わたしに力をお与えくださいませ!なんて言ってもわたしは宗教に入っているわけじゃないから、たぶん神様はわたしに力を貸してくれないだろう。でももし、機嫌が良かったらわたしに力を与えてください。折原くんの隣の席になる権利をわたしにください。



(神様・・・!ありがとう・・・!)

天を拝む。いけない、涙が出そうだ。担任ありがとう。単細胞の熱血馬鹿だと二年間思ってまじめに体育うけなくてごめんなさい。今年からはまじめに体育の授業受けようと思います。ありがとう神様ありがとう担任!そんなこんなでわたしの左隣には折原くんがいる。一番後ろの、窓側の席。わたしはその隣。一番ラッキーな席だ。授業中にこっそり携帯いじることも、授業中にこっそり眠ることも、授業中にこっそり漫画を読むことも、許された(本当は許されてない)席だ。だけどわたしはそんなことしないだろう。折原くんが隣だってことだけでなんだかハッピーで、たぶん良い子に見られるようにまじめに授業だって受けるだろうし、携帯いじったりも、漫画読んだりもしない、だろう。苦手な数学の宿題だってこなしてきて見せる。猫かぶりとかなんとかわかんないけどさ、よく見られたいっていう願望は誰にだってあるんじゃないの?だから、わたしだって、できるだけよく見られるように、がんばるよ。それで好きになってもらえたら嬉しいんだけど、嬉しいんだけど・・・。




ごめんなさい。さっそく古文の授業で爆睡してしまいました。だってさ、先生の声が気持ちよくてさ、眠くなっちゃったんだもん。高い声なんだけどさ、耳がキンキンするような声じゃなくて、優しくて、空気みたいな声なんだよね。α波でも出てるんじゃないの?って思っちゃう感じで、わたしが目を覚ました時、何人か寝てるのが見えた。黒板にはズラリと漢字が並んでいて、わたしは急いでそれを書き写した。


「次の訳を出席番号6番の・・・折原くん」先生がそう言うと折原くんは立ち上がってスラっと答えを言った。そうだ。寝ててすっかり忘れてたけど、折原くんはわたしの隣の席だった。綺麗な声だなぁ。よくテノールとか聞くけど、たぶん折原くんの声みたいなのを言うんだろうなぁ。そんなこと考えながら折原くんのことを見てると、折原くんがわたしの方を向いて、急いで目線を落とした。どうしよう、ずっと見てたの、ばれてしまったかもしれない。






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テーマ「人外ファンタジー」
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