おりはらくん。 わたしがそう呼ぶと折原くんは「しつこいよ」と言うけど、そりゃ何度も呼ぶわたしがいけないのかもしれないけど、わたしを抱きしめる腕の力が一向に弱まらないってことはつまり、わたしを抱きしめていたいって、そういうことだよね?







わたしは折原くんが笑うのが好き。わたしは折原くんの指が好き。わたしは折原くんの書く字が好き。折原くんが呼ぶわたしの名前が好き。折原くんがわたしの名を口にするたびに、この名前でよかったって思うから。わたしは折原くんの身長が好き。高いわけじゃないけど、隣にいて落ち着く。わたしは折原くんの声が好き。低すぎず、高すぎず、えろい。わたしは折原くんの目が好き。涼しくて、でもたまに熱くて、たまにすごく冷たくて、いろんな表情を見せてくれるから、好き。わたしは折原くんの耳が好き、形がきれいで、思わずかぶりつきたくな・・・ゲフンゴフンなんでもない。わたしはつまり、折原くんがぜんぶぜんぶぜんぶすきなのだ。折原くんエルオーブイイーLOVE臨也!なのだ!だから折原くんが抱きしめてくれるわたしでいられて良かったなあと、思うのだ。感じるのだ。

折原くんは少しずつ、わたしから身を離すと、「いきなりごめん」とうつむいた。


「ううん、わたしも、折原くんがすきだから」


わたしがそう言うと、折原くんは目をまん丸にしてわたしのことを見て「嘘 でしょ」と言った。嘘なもんか。わたしはずっとずっと、折原くんが好きだったんだ。一目見たときに「この人だ!」って分かったんだ。わたしはその直感を信じて、ここまで来たんだ。折原くんは知らないかもしれないけど、わたしはずっとずっと、折原くんが好きだったんだよ。折原くんが好きで好きでしょうがなかったから、危ないところに首を突っ込んだりしてたんだ。頭のいい折原くんなら、とっくにわたしの気持ち気づいてると思ったんだけどなぁ。


「俺のこと、好きなの?」
「うん」
「木村さんは、俺のことが好きなの?」
「うん。折原くんが好きだよ」


きゅ、と折原くんと両手をつなぐ。折原くんの指先は冷えていて、わたしがあっためてあげたいなんて考えた。わたし、手、あったかいから。ああ、心臓がどきどきうるさいなぁ。こんなにうるさいんだったら、さっき抱きしめられたときに折原くんに聞こえちゃったかもしれない。折原くん、可愛い。かわいくて、かっこいいよ。


「折原くんって、意外と鈍感なんだね」
「木村さんには言われたくないけどね」
「ええ」
「俺は、君のこととなると中学生みたいになってしまうんだ」


折原くんはわたしの手を握り返すと、優しく笑った。


「わたしを、折原くんの彼女にしてくれる?」
「もちろん。こんな俺でよかったら」


折原くんとわたしの影は月光に照らされて長く伸びる。影が一つに重なった時は、折原くんとわたしがキスをしたとき。

わたし、たぶん折原くんのこと全然知らない。知らない折原くんのことばかりだと思うんだ。折原くんの好きな食べ物だって、飲み物だって知らないし、どんな映画が好きで、どんな音楽が好きなのかも知らない。でもこれから二人でいる時間が長くなればもっと知っていけるよね。知らないことばかりのわたしだけど、知ってる真実が、一つある。折原くんはわたしを好き。そして折原くんも知ってるわたしの真実。わたしは折原くんが好き。






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