もう真っ暗だし、追手はこないし、だから手を離しても大丈夫だと思うんだけど。どうしてまだ手をつないでいるんだろう。どうして折原くんは手を離さないんだろう。わたしは嬉しいんだけど、折原くんはこのままでいいのかな。というかわたしたちはいったいどこへ向かって歩いてるんだろう。





Act11 何度呼んだって





会話はなし。わたしも何を喋ったらいいかわからないし、折原くんも、もしかしたらそうなのかもしれない。手をつないでるだけ、だ。二年前の今、わたしは折原くんを見つめているしかなかったのに、今はわたしの1.5歩先にいる。二年前のわたしには、きっと想像もつかなかったことだろう。すごい、すごすぎる。わたし、折原くんと一緒に歩いてる、折原くんと手をつないでいる。折原くんに助けられた。折原くんが来なかったら、わたし今頃どうなっちゃってたんだろう。考えるだけでぞっとする。男の人いっぱいいたし、きっとただじゃすまなかったはずだ。良かった、折原くんが来てくれて。そうじゃなかったら・・・。頭がぞわぞわして、背筋が冷たくて、今になって急に恐怖が、わたしを襲った。歩けなくなって、立ち止まると、折原くんもわたしにつられて立ち止まった。どうしよう、歩けない。もう男の人たちはいないのに、もう追ってこないのに、もう安全なのに、折原くんが近くにいてくれるのに。わたし、どうしようもなく、怖かった。

「木村、さん?」
「ご、ごめんっ・・・」

視界が崩れる。ぼろぼろと目から涙が出てきた。零れたとかそんな表現じゃ足りないくらい、ぼろぼろぼろぼろ出てきた。どうしよう、止まんないや。折原くんと繋いでないほうの手でぬぐうけど、止まりそうにもない。どうしよう。泣いてるところなんて、見られたくないのに。きっと顔ぐちゃぐちゃで、かわいくないから。とまれとまれとまれ。なみだとまれ。

「あは、は。おかしいの。今になって、怖く なっちゃって」
「木村さん」
「わたし、ノコノコ 着いて、行ったけど、見つかる なんて、思っても なくて。逃げようって 思って、も、逃げ道 なく て。どうし よう、って、怖くって、こわく て。折原くん きて くれなかった、ら、わたし いま ごろ」
「木村さん」
「おかしい なぁ。涙、とまん ない」
「木村さん」
「ごめ ん。いま 止めるから」

へらへらと笑って見せるけど、一向に止まらない涙。視界がぐしゃぐしゃで、折原くんがどんな顔してるかわからない。


わからない。
どうしてわたしがいま、折原くんに抱きしめられているかなんて、わからないよ。折原くん、今折原くんは何を考えてるの。

折原くんはわたしを抱きしめながら「よかった」を繰り返し言って、頭を、背中を、ぎゅうぎゅうに抱きしめた。わたしの鼻が潰れちゃうくらい、折原くんの肩に押しつけられて、わたし、さっきまで手をつないでいて、今、抱きしめられていて、こんなの、ゆめみたいだ。ゆめみたいだ。折原くんが「よかった」をエンドレスリピートしている間、わたしの頭の中は ゆめみたいだ でいっぱいになって、手持無沙汰だったわたしの両腕を折原くんの背中にまわした。涙がもっと出た。

「折原くん、わたしのこと すき?」
「すきだよ 木村さんの馬鹿」

おかしいよ、ゆめみたいだ。だって、だって、だって、折原くんが、わたしをすきだと言った。そのあとに馬鹿ってついてたけど、きっと折原くんなりの照れ隠しなのかもしれない。
折原くん、折原くん、折原くん、折原くん、折原くん。何度も折原くんの名前を呼ぶ。そのたびに折原くんは「なに?」とか「しつこい」とか応えて、わたしは意味もなく折原くんの名前を呼び続けた。どうかこれが夢じゃないように、ちゃんと折原くんがここにいるんだって、自分に知らしめるために。折原くん。何度呼んだって足りないよ、折原くんの名前。折原くん、わたし、すごく折原くんのこと好きなんです。初めから、ずっと。折原くん。折原くん。おりはらくん。






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