本来なら、わたしは晩ご飯の材料を買って帰り、お母さんの横で晩ご飯を作るお手伝いをして、お父さんとお母さんと鍋を囲んで、美味しい美味しいって食べてるはずなんだけど、わたしは、折原くんのこととなるとリミッターが外れてしまうので、なぜか今、先日のコワモテな男の人たちに囲まれているのです。





Act10 ヒーロー、遅れて登場





「だーかーらー、折原臨也くんはー、どこにいるのかなー?」
「しししし知らないです!」

その男たちは顔が赤く腫れあがっていたり、すでに青く痣になっていたり、右目がつぶれていたり、絆創膏が貼ってあったりと、折原くんに負けたのは見るに明らかである。ウワァ、折原くんってやっぱり強いんだ。どうやって勝ったかは分からないけど、想像するに、卑怯な手を使ったのではないだろうか。折原くんってば、やるぅ。とかじゃなくて!今私はこの場を脱出したいのだ!やばい雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。恐怖で手なんて冷たくて、体中に冷や汗をかいている。ここで仮×ライダーとかゴ×ンジャーとかウルト×マンとか来てくれないかな。正義のヒーローは遅れて登場するらしいから、もうそろそろ現れてもいいと思うんだ。というか一刻も早く現れてほしい。
さっきから男たちは折原くんの居場所を知りたがっており、わたしに問い詰めている。そんなこと言われても、わたしは折原くんの居場所なんて知らないし、住所なんて知らないし、今日どこで何をしているかなんて、知るはずもない。だからわたしに折原くんの居場所を聞くのは見当違いも甚だしい。それに知ってても教えない。絶対教えない。折原くんを傷もの(ってなんか使い方違うけど)になってしまうのは嫌です。だから!知ってても!絶対に!教えない!

「ほらほら、早く教えてくれないと、痛い目に遭っちゃうよー?」
「知らないって、言ってるじゃないですか!」
「だってさ、君、折原臨也の彼女でしょ?」
「か、彼女!?そんな、めっそうもない!わたしが彼女なんてありえない!」
「え、だってあいつ、アンタが出てきたら・・・」

鼻にピアスがついている男がわたしに近づいてきて、耳元で「必死になっていたから」と言った。背筋がぞくぞくとして、今にも逃げ出したくなる。今にも、というか、もうずっと逃げ出したかったんだけど、さらに逃げなくちゃいけないと、強く思って、頭ん中警報がガンガンガンガン鳴り響いて、わたしは一歩、一歩と後ずさりをした。どうにか、逃げなくては、隙を、隙を探すんだ。気づかれないようにチラリと周囲を見回す。うう、逃げ道がないよ。一歩、また一歩。後ずさりをする。そして、一歩、また一歩と間が詰められる。ねぇ、正義のヒーローならそろそろ現れてもいいと思うんだけど


「彼女を離せ」

背後から声が聞こえる。やっとヒーローのお出ましの様だ。声の方を向くと、そこには巻き込みたくなかったたった一人の人がいた。

「お、お、折原、くん」

どうして、と消え入りそうな声で言う。どうしてここに来たの。どうしてここがわかったの。どうして、折原くんが来たの。
折原くんには、来てほしくなかった。だって、男たちはみんな多分、折原くんを憎んでいて、恨んでいて、きっと、折原くんを倒そうと思っているから。折原くんが、傷ついてしまうかもしれない。痛い思いをしてしまうかもしれない。そんなの、わたしの望んだことじゃない。どうせ来てくれるなら仮面×イダーとかゴ×ンジャーとかウ×トラマンが良かった。でもどうやら、わたしのヒーローは折原くんだったらしい。

「やっと来たな」と誰かが言った瞬間、折原くんは目にも止まらぬ速さでわたしに近づき、はしっとわたしの手を掴み、ぐんっと大きな一歩を踏み出した。うへぇ、手!?わたし、今、手をつないでる!折原くんと、手、つないでるよわたし!どうしよう!というか、折原くん、足早い!引っ張られた手が痛くて、初めて繋いだ手が嬉しくて、走ってるから息がはずんで、体が熱くなる。

「木村さんの馬鹿!」
「え!?」
「なんであんなやつらにノコノコ着いて行った!?」
「だ、だって、なんか集まってたから、また折原くんが巻き込まれてたんじゃないかって・・・」
「俺はそんなドジじゃない!」
「お、折原、くん」

ずいぶんと走って、減速し、折原くんは立ち止った。わたしもつられて走るのをやめる。走りつかれてわたしも折原くんも肩で息をしている。もう男たちは追いかけてこないのに、それでもわたしの手を掴んだままの折原くんが、大きく深呼吸をして、「君が無事でよかった」と言った。それはこっちのセリフだよ、折原くん。






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