ワタシを繋ぎとめるのも




ポチャン、ポチャン

涙が浴槽に沈む。


バラの香りがする。そういえばバラの入浴剤を入れたような気がした。この香りはあたしの大好きな香りで。ああ、そういえばディーノと初めて一緒にお風呂はいったときもこの香りがしたよなあ。白乳色のお湯。あたしもこんな風にまっさらになれたらいいのに。ディーノの浮気だって許せるくらいの広い心を持っていたらいいのに。

でも持てるわけがないのだ。

ディーノはあたしにとってたった一人の人で。身を捧げて、愛した。愛して愛して、繋いだ手も離したくないくらい。抱きしめられたら一晩中抱きしめて欲しいくらい。キスしたら、もっと深くキスしたくなるくらいに、あたしは愛した。まだ足りない。あたしの愛はこんなもんじゃなくて。もっともっと、ディーノを愛してて。ディーノもそれくらいあたしを愛してくれているもんだと信じていたの。

信じていたの。
でもディーノは、違った。

泣き虫ディーノはドアの向こう側で泣いているのかな。正座してるんじゃないかな。あたしが怒ったときいっつも正座してべそかいて謝ってたもんね。今回もそうなのかな。ああ、どうしてだろうね。ディーノに引き止められるとなぜか離れたくなくなるの。浮気なんて最低。あたし以外とやっちゃってちゅーしちゃって。ほんとうに信じられない。あたしというものがありながら!あたしだけじゃ足りないのかなぁ。やっぱり浮気された最大の原因はあたしじゃないだろうか。あたし、魅力ないから。


「どうしたら、いいかな」
「アミ…」


驚くほどに響く、あたしの声。涙は止まらなくて、何度も鼻すすって、涙は白乳色の浴槽に溶けていく。お湯の温度がどんどん冷めていく。これが夢だったらいいのに。夢だったら目が醒めて、なかったことって分かるのに。


「オレ、アミがすき。愛してる。ほんとに、嘘じゃないから」
「うん」


わかってるよ、ディーノが嘘つけるような人じゃないってことくらい、わかってる。きっとディーノはあたしを好きでいる。でも、もう一人誰かを好きでいたんだ。そんなディーノをあたしは出会った頃の愛で、ディーノを愛せるのだろうか。愛せないかもしれないよ。ディーノどうしよう。ディーノのことすきなのに、どうしよう。どうしよう。


「でぃーの ぉ」



どうしようもなく。ディーノの胸に、飛び込みたくなった。
すきだ。やっぱりすきだ。ディーノが浮気しちゃってもやっぱりすきなの。
出逢った頃のあたしたちには戻れない。
だけど、やっぱりすきなの。浮気されてもディーノがいいの。こんなあたしは都合のいい女なのかもしれない。

体濡れてることなんて気にしない。裸だってこともどうだっていい。いまはただ、ディーノの腕の中にいたいの。ディーノの体温を感じていたいの。ディーノ、ディーノ。あたしいっぱい矛盾してる。あたしいっぱい、変なこと考えてる。でもディーノがすきなの。すきなのすきなのすきなの。


勢いよくドア開けてドアのすぐ真正面にいるディーノに抱きついた。
やっぱりディーノは正座をしていて、下を向いて泣いていたようだ。
愛しい愛しい、あたしのディーノ。
勢いに任せて抱きついたから、そのまま床に倒れこむ。ゴン、とディーノが頭を打った音が聞こえた。パンツ一丁のディーノ。すきすきすき。浮気されたし心のどこかじゃディーノを許せてないかもしれない。また浮気されちゃうかもなんて考えてる。でもディーノがすき。すき。すき。


「ディーノ、ディーノディーノ、ディーノ」
「アミ、アミ、アミ」
「うん、ディーノ、すき。すきすき」
「おれも」

頭を撫でられた。
そして、キスをした。
あたしの求めてる、ディーノがそこにいた。







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