しばらくたって、涙がとまった。あたしのおもいもいつかこんな風に止まってしまうのだろうか。



あたしの背中にあるドアの向こうで、ディーノはいったいなにを考えているのだろうか。すぐ向こう側なのに、ずっと傍にいたのに。今なにを考えているかわからないの。切り出したのはあたし。壊したのはあのひと。ずっ と鼻をすすって、あたしは歩き始めた。お風呂に入ろう。全部洗い流そう。あたしの一人部屋にある、ちいさなお風呂に入ろう。
重たいシーツを引きずる。歩きにくい。この部屋から離れてしまったらいけない気がした。この部屋から離れてしまったら、戻れない気がした。でも、もう戻れないよ。だって、ディーノが一度誰かに触れた唇で、あたしにキスをするなんて。考えただけでも気持ち悪くなってしまう。あたし以外の人を抱いた腕。だめだめだめだめ。そんなのいや。あたしだけが良かったの。あたしだけのためにその腕で体全部抱きしめて欲しかったの。



熱いお風呂に入ろう。全部洗い流そう。そうしたら日本に帰る準備を始めよう。先に、先に、 そう考えるとまた涙が出そうになる。



足の先から、感じる熱。日本語も最近喋られなくなってきた。思い出すために歌を歌う。口からこぼれる歌は失恋ソングばっかりで笑えた。パシャンと水がはねる。あたし懲りずにまだ泣いてる。いいかげんにすればいいのに、あたしも涙も。




「アミ、そのままでいいから、ちょっと話し聞いて」

扉の向こう側から、声が聞こえた。言い訳なんか聞きたくないけど、こんな風に追いかけてきてくれて、こんな風に広い広い屋敷からあたしの場所分かってくれて、あたしに言い訳しようとしているディーノがやっぱりいとおしくて。あたしどうかしてるんじゃないかとおもった。浮気なんて最低最悪だし、やっちゃったことだって許されないし許したくもないし、なのにやっぱり大好きなんです。

「なにもきくこと、ないよ」

そうやって言い訳するくらいなら最初から浮気なんてしなければいいでしょ
あたしだけをずっとみてればいいでしょ
言い訳したくなるくらい、あたしを遠くにやりたくないなら
はじめから浮気なんて

「きいて。聞くだけでいいから」

あたしが返事をしないでいるとポツリ、ポツリと言葉をこぼし始めた。


アミごめん。オレ、馬鹿でごめん。自分勝手でごめん。自分のことしか考えてなくてごめん。ごめんごめん。だけどやっぱアミが好きです。だから別れるなんていわないで、無理なんていわないで。相手のほうとはちゃんとけじめつけるから…

「あたしとけじめ、つければいいじゃん」


どんどんお風呂のお湯がぬるくなっていく。いつかあたしとディーノの温度もこんなふうにぬるくなっていってしまうのかな。おばあちゃん、おじいちゃんになるまでずっと一緒にいたかったんだけどな。死んじゃっても天国で一緒にいたいなあとかおもってたんだけどな。それもきっとあたしだけで。


むり、オレ、アミ以外なんて考えられない。

あたしだってむりだもん。その唇でキスなんてして欲しくないよ。その体で抱きしめてほしくないよ。口に出せない。
誰かが触れた唇でもあたしに触れて欲しくて、誰かをキツク抱きしめた腕でもあたしを抱きしめて欲しくて。
矛盾してるけど。


「ねぇディーノ。あたし、どうしたらいいかな」

自分のきもち、だんだんとわからなくなってくる。ドアの前で泣いていたとき別れなきゃ、別れたいっておもってたのに。どうしてだろうね。引き止められると、彼の腕に飛び込んでしまいたくなるの。


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