「アミ」
「なあに」
「明日休みもらったんだ。二人でどこかに行かない?」


あたしは一瞬悩んで、すぐに笑顔で「もちろん」と言った。ちゃんと笑えていただろうか。










「どこ行こうか」
「んー、海がよく見える場所」
「わかった」


ディーノが運転する横で、あたしは流れる景色を見ていた。ドライブにぴったりなボサノバが流れている。あたしセレクト。ディーノは鼻歌を歌いながら、丁寧な運転をしている。

(あーぁ、相変わらずかっこいいなあ)

きっとディーノの部下がどこかにいるんだろうな。たしかに今は二人きりだけど、後ろに走ってる車が部下かもしれない。もしかしたらこの車のトランクに潜んでるかも・・・。ディーノは知っているのかな、知っているんだろう。でもあたしには言わない。絶対言わない。


会話はほとんどない。あたしが無口になってるからだ。でもこうやって二人でいることが楽しい。あたしは楽しんでいるけど、ディーノはどうかな。楽しんでくれてるのかな。そうだといいな。


「もうすぐ海だよ」
「うん」


どんどん移り変わる景色。
今はシーズンから外れているからそんなに混んではいないけど、きっとシーズンまっただ中だったら渋滞渋滞で酷いんだろうなあ。イタリアの人たちはなんでかみんな海が好きだから。


「どうする?ビーチ行く?」
「うん。ちょっと海に入りたい」
「わかった」


ディーノは海のすぐそばにある駐車場に車を止め、車から出た。あたしも車から出る。鞄、いいか。置いていこう。

どうして海が見えるとこう、わくわくしてくるんだろう。履いてきたスニーカーを脱いで、ビーチにかけ出す。後ろからディーノが「砂浜走ったらこけるぞー」と言った。足がもつれて転びそうになるけどそのたびになんとか体制を持ち直し、海に向かって走った。


「海冷たい!」
「もう秋だからなー」
「でもきもちい!」
「うんうん」


ワンピースの裔を手で持ち上げ波を蹴る。思ったよりも水が冷たくてびっくりしたけど、慣れると意外と平気なもんだ。ディーノの方を向くと、あたしのスニーカーを持ちながらてくてくと歩いていた。


「ディーノもおいでよ」
「俺はここから見てるよ」
「なんで、海楽しいよ」
「じゃあ今度の夏にくるか?」
「んー、ヤダ」
「なんで」
「混むじゃん」
「確かにな」


少し遠くにいるディーノにあたしの声がちゃんと聞こえるように、大きな声を出す。こんな大声を出すのは久しぶり。


「楽しいか?」
「うん」


ちゃぷちゃぷ、と海の中を歩くだけで楽しい。あまり深いところまで行けないけど。海がきれいだ。透き通ってて、よく目を凝らしてみれば魚がいることが分かる。あ、綺麗な石発見。



「久しぶりに笑ってくれたな」
「え?」



「アミをここに連れてきてよかった」とディーノは言った。


「ディーノー!」
「んー?」
「あたし、ディーノのこと ちゃんとすきだよー!」
「うん。俺もー!」



ディーノは泣きそうで、だけど嬉しそうに笑っていた。あたしもつられて笑う。
ちゃんとすきだよ。まだ傷は癒えそうにないけど、ディーノのことが大好きだよ。


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