あたしが綱吉とこんな関係になったのは、イタリアに来て初めて日本語で喋った相手が綱吉だったからとかじゃなくて、綱吉がかっこよかったからとかじゃなくて、綱吉があたしを求めていたからとかじゃなくて、綱吉だったから、こんな風になったんだって、あたしはそう信じたい。明日になったらもう二度と会えなくなるかもしれない。だからあたしをもっと強く抱きしめてキスして欲しい。あたしの体に綱吉を残しておきたい。

「綱吉」

抱かれながら一つ大きな決心をした。




「んー?」
「京子さんて誰?」
顔色一つ変えずに彼は、
「・・・俺の前のヨメさん」
「!」
動揺したのは、あたしの方。

「死んじゃったけどね」

言葉を失った。あたしから話かけたのに、続く言葉が見つからない。誰かも分からない京子さんが、顔も体も格好も髪の毛もなにも分からないけど、スーっとあたしの体の中に入ってきた。

「アミと会ったときビックリした。なんか、似てたから」
「どこが?顔?」
「そういうんじゃなくて・・・なんていうかな。強いて言えば雰囲気?」
「へぇ」

雰囲気が似てる。似てるわけない。だってあたしはあたしなのだから。

「あのさ、綱吉」
「ん?」
「ロミオとジュリエットのジュリエットってさ、体冷たくする薬飲むでしょ?仮死状態にするやつ」
「そうだっけ」
「そうだよ。前一緒に劇行ったじゃん」
「そうかも」
「何色だと思う?その薬」
「・・・赤じゃないかな。血みたいな」
「怖いこと言わないでよ」
「その薬には人の血が入ってたんだよ、たぶん」
「えー・・・。なんで?」
「仮死状態にするにはそれくらいしないと」
「そうなのかな、そうなのかも」

遠くを見つめて彼は言った。

「京子はね、そうだったんだ」
「え?」
「俺が出血多量でしにそうになったとき、血、くれたの。俺珍しい血液型でさ」
「え?A型でしょ?」
「いろいろあるんだよ、よく知らないけど。」
「ナニソレ」
「んで、たまたま京子が一緒だったの、その珍しい血と」
「!」
「ほとんどくれた。目が覚めたとき、京子は冷たくなってた」
「・・・」
「驚いた。京子は反対を押し切って俺に血をわけてくれた。血、あげすぎたら死んじゃうでしょ?それなのに」

「それなのに京子は」


なにを言えばいいか分からず。隣にいる綱吉の横顔を見つめることしかできなかった。上を見つめている綱吉。天井しかないのに、いったいなにを見ているのだろう。

「驚いた。何で自分が生きていて、京子が死んだのか、わからなかった。俺がここまでこれたのは、京子のおかげで、俺がここまでやれたのは京子のおかげ。俺は京子ナシじゃここまでできなかったのに、何で俺が生きているんだろうって、責めた。京子がいなけりゃ、なにもできないのに。何度も自分を責めた。何度も死のうかと思った。引き金引けばすぐに死ねるのに、できなかった。京子に悪いって思った。せっかく助けてくれた命。自分の命捨ててまで救ってくれたから。」

だからもう、死のうなんて考えてないよ と言い。彼はあたしにキスをした。もしかしたらあたしじゃなくて京子さんにキスをしているのかもしれない。あたしは京子さんじゃないけど、きっと綱吉は重ね合わせてる。綱吉はみとめないかもしれないけど、あたしには分かるよ。
涙が溢れた。きっと二人の間にはかたい絆があって、きっと誰も入りこめないような何かがあって、綱吉は京子さんを愛していて、京子さんも綱吉を愛していた。あたしはその間に入り込むことはできない。きっとずっと。でもそれはたぶんずっと前から知っていた。二人の間にはあたしなんて割り込めるわけない。入っちゃいけない。だからせめて

「もういっかい、キスして」
「アミはわがままだね」

今だけはこうしていて。綱吉が眠ったら、綱吉宛に手紙を書くよ。静かに荷物をまとめるよ。綱吉が目が覚めたとき。あたしはもういないと思うけど、寂しがったりしないで。あたし、京子さんの代わりでも傍にいられたらいいな、なんて思ってたけどやっぱり無理だったよ。あたしは綱吉が好きで、だいすきで、その人が誰か他の人のことを考えてるなんて、耐え切れないから。
あたしの頬を綱吉は大きな手のひらで包む。あたたかいけど、もうこれが最後だから。もう次はないから。次は来ないから。

暗闇にいたから、わからなかったのか。綱吉はあたしの頬を触って驚いた。
「泣いたの?」
「ウン」
「ごめん」
「ううん」
「もう、泣かせたりしないから」
綱吉は何回もあたしにそう言ったけど、あたしの涙はそんなカンタンに枯れ果てたりしない。綱吉が

「すきだよ」
「俺も」









綱吉さんへ。
こんな風にかしこまって手紙を書くのは初めてかもしれないよね。きっとはじめてだ。わー、緊張するなー。


ペンを握る手が震える。涙が零れ落ちそうになる。手紙に染みなんて作りたくないから。


日本に帰ります。綱吉の傍にいられて本当によかったです。綱吉と知り合えて、嬉しかった。綱吉と出会って私、確実に変わったと思う。
綱吉には伝えずにこっそりと日本に帰ろうと思います。私、もう無理だから。だからこれが最後です。もう二度と綱吉に会うことはない。会いたくないかもしれない。
でも私はすごく綱吉をだいすきで、愛していて、体全部で愛していた。それだけは嘘じゃないし、大真面目です。たぶん時間がたてば綱吉は私のことを忘れて、きっと私も綱吉のこと忘れる。だからこうやって出逢ったこと、忘れたって構わない。けど、でもね、あたしがいて、あたしと一緒に過ごしたことは忘れないで欲しいんだ。たまにでいいから、ほんとうにたまにでいいから思い出して欲しいんだ。すごくすごく、綱吉が好きだったから。
きっと綱吉は京子さんが好きで、今でも好きなんだよね?いまでもすごく愛しているんだよね?あたしに京子さんの代わりはできなかったみたいです。京子さんの代わりでもいいかな、なんて浅はかなこと考えてた時期も会ったけど、私、やっぱり無理です。綱吉が好きだから、代わりなんてできないや。ごめんね。
綱吉と出会えてよかったし、良くなかった。いろんなこと知って楽しかった。そうやってシアワセなことが増えていくと別れるのが寂しくなるね。でももうお別れです。そろそろ飛行機の時間だから、もう行くね。
心残りになりそうな、綱吉からもらったプレゼントはこの部屋においておきます。ネックレスもブレスレットも指輪もピアスも。ありがとう。嬉しかった。
この部屋は、あと一ヶ月したら契約切れるので、荷物は全部、捨てちゃってください。最後のお願いです。
全身全霊かけてだいすきだった綱吉へ。アミより。



涙がボタボタ落ちた。陽が昇ってきて、窓の外がくなった。



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