すごく今更だけど、どうしてあたしは綱吉のこと、こんなにも好きなんだろうか。



いつだったか忘れてしまったけど、綱吉が「オレ、オムライス好きなんだよね」と言ったことを思い出し、あたしは急ぎ足で近くのスーパーに向った。卵も切れそうだったし、卵もかごに入れた。鶏肉、レタス、ピーマン、玉ねぎ・・・・。綱吉のことを考えながら買い物するなんてなんだか結婚したみたい、だなんて幸せ気分で笑ってみたけどすぐに気持ちは沈んだ。

あたしは綱吉の恋人でも、婚約者でも、結婚相手でもなんでもない。愛人。
この、綱吉のなかのあたしのポジションは、いったいどのくらい大きいんだろう。どのくらい高いのだろう。綱吉の心のなかに、あたしは何パーセント含まれているんだろうか。そんなこと言い出したらキリがないけれど。あたしが思っていること全てを綱吉に伝えてしまったら、嫌われてしまいそうだけど。


軽い足取りで、家に向う。そのうち綱吉があたしの部屋の扉をノックする。その瞬間をあたしは待ち焦がれている。

待っている間に、オムライスの下ごしらえをする。野菜を洗い、小さく切る。鶏肉を少し叩いてから切る。フライパンに油を落とし、鶏肉を炒め、野菜を炒める。
カチッカチッ 時計の針が進む音が聞こえる。あたしが家についてから何分がたったのか気になって、キッチンから出て、携帯電話を確認するとチカッとライトが光り、震えた。そういえばマナーモードにしたままだったことを思い出して電話に出た。買い物が楽しくて、つい、忘れていた。

「もしもし、綱吉さん?」
「アミ。今どこだと思う?」
「車の中かな?」
「ちがう」
「じゃあ、まだお屋敷?」
「ちがう」
「あたしの部屋の前?」
「ちがう」
「わかんないよ」

その瞬間、あたたかい温度に包まれた。力強く、後ろから抱きしめられる。フワ、と香る、DLUCE&GABBANAのLite blue。 「綱吉」 言葉にできないまま、キスをされる。無理やりまわされた首が痛い。そんなことはもう、どうだってよかった。綱吉がそこにいれば、なんだってよかった。空腹だって、気にならないし。

「ん、ちょっと、綱吉。待って」
「無理待てない」
「火事になっちゃう!」

そう言うとあたしを抱きしめていた手をパッと離し、あたしは駆け足でキッチンへと向った。幸い火にかけていたフライパンは無事だった。ナカミも。(ちょっとコゲたけど)

「オムライス?」
「そう」
「オレ、好きなんだ」
「だから作ろうと思って」
「いーよ」
「お腹減ってない?」
「あとででいい」

また後ろから抱きしめられる。綱吉は後ろから抱きしめるのが好きだ。首元にうずめられた綱吉の顔。息が首にかかってくすぐったい。くんくん、とあたしのにおいを嗅いで「アミのにおいだ」とこぼした。中型犬みたい。そしてそのまま、ベッドにもつれ込む。






「なんか、奥さん、浮気してるみたい」
「え」
「オレも人のこと言えないけど。でもそれ知ってもどうも思わなかった」
「なんで?」内心嬉しい気持ちを抑え、聞いた。

「相手のひと、オレと結婚する前から付き合っていた人らしくってさ」
「うん」
「迷惑だよなー。きっと」
「なにが?」
「オレの存在」
「そんなことないよ」
「あっちにしてみればさ」

綱吉の腕の中はあったかい。幸せってこんなことを言うのだろうか。あたしは綱吉の夫婦関係をぶち壊していないだろうか。綱吉の仕事を邪魔していないだろうか。これは邪念なのだろうか。

「結婚なんて、政略結婚だからさ」
「うん」
「奥さんもオレのこと、どーも思ってないでしょ」
「そうなの、かな」
「たぶんね」
「あたしは綱吉が、すきだよ」
「オレもアミがすきだよ」

そのすきは果たして、あたしに言っている言葉なのだろうか。綱吉の本心は?京子ちゃんは?奥さんは?奥さんの相手は?綱吉はいったい、なにを思っているんだろう。心が読めない。その深い深い、黒い瞳の奥に、なにを焼き付けて生きてきたんだろう。綱吉、あたしね、すきというより愛しているの。


それから綱吉が奥さんの話をだすことは、なくなった。たぶんコレが、最初で最後。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -