待っている時間が、一番キライ。ハラハラドキドキなんて、していたくない。




こういう関係になってから、変わったことはあまりない。恋人のような、いや、愛人のすることをするようになったくらいだ。電話が来る日も来ない日もある。メールが来ない日もある。週に3回会えればいいほうで、一ヶ月まるまる会えないこともある。だけどそんなのに慣れることなんて、なくて。苦しい日々が続くばかり。だけど苦しいなんて、言えない。我侭なんて、言えない。引き止めたりもできない。嫌われるのが怖いとか、そういう次元じゃない。愛人て、なんかお金もらったりするらしいけど、あたしは綱吉から1銭もお金をもらったことはない。プレゼントとかはあるけど、お金自体をもらったことはない。だって欲しいのは、お金なんかじゃなくて、綱吉の心だから、・・ってちょっとクサイけど。

綱吉が見ているのは、あたしじゃなくて京子さん。綱吉の口から京子の名前が出ることはあの日以来一度もない。きっと、綱吉が大好きで大好きで堪らない人なんだと想う。今も、なのかもしれない。こんな風な関係になって、綱吉はさらに優しくなった。前から優しかったけど、もっと。あたしに触れるときの指や、息遣い。全部が優しい。だから苦しい。あたしに優しくしてるんじゃなくて、京子さんに優しくしているみたいだから。綱吉の目に、あたしが映ることなんてあるのかな。電話を待っている間、こんなことばっかり考えちゃうから、悲しい、切ない、苦しい、恋しい。今日はもしかして奥さんを抱いているのかな、そのあとにあたしを抱いたりしないで。あたしを抱いているときも、京子さんを思い浮かべているのかな。それでもいいの、それでもいい。綱吉の傍にいられるなら、なんだっていい。だけど、奥さんのあとにあたしを抱かないで。


「ごめん」と綱吉はよく言う。あたしは謝られるのがすきじゃない。綱吉がいう「ごめん」は、なにに対してのごめんなのか分からない。きっとそれも京子さんに言ってるんだと思う。ねぇ、綱吉。あたし京子さんに似てる?日本人だから?ブロンド美人の奥さん差し置いてすきなひとなの?言いたいことは山のようにある。聞きたいことも、聞いてほしいことも。一番聞きたいのは あたしをすきなのか。 そんなの、聞けないよ。聞いたら綱吉の傍に、いられなくなる気がする。


もしかしたら今日一日、電話がかかってこないのかもしれない。メールもこないのかもしれない。それでもまってるあたしはなんだか痛い。綱吉の嫌いになる方法なんて、探してもこの世にひとつもない、よ。嫌いになる方法なんていらない。もし綱吉が望むなら、綱吉が教えて。メールもこない、電話も来ない。不安と苦しさが募る。あたしの部屋はどんどん綱吉で溢れてくる。綱吉がいつも使うマグカップ。綱吉が触れた、スプーン、箸。綱吉と過ごす、シングルベッド。綱吉のスリッパ。綱吉が買ってくれた、テディベア。一番綱吉で溢れているのは、あたしだ。なのに、綱吉は、いない。



電話が鳴る。一回だけで、受話器をとる。待っていたくない。もしかしたら、電話の向こうには綱吉じゃない、ほかの誰かかもしれないけど、どうでもよかった。電話に出たかった。声が聞きたかった。綱吉を感じたかった。綱吉の傍にいたかった。綱吉を近くで感じていたかった。綱吉の唇に触れたい、髪に、頬に、指に、


「アミ?電話出るの、早いね」
「綱吉」
「遅くなってごめん」
「ううん、いいの」


「明日、ディナー行こうか」
「本当?でも、ゆっくりしたい」
「そう、じゃあ明日、アミんち行くから」
「うん、待ってる」
「何かあったの?」


「なにもないよ」
「ほんとうに、ごめんな」


それは、言わないで。言葉を飲み込む。喉が苦しくなった。おなかがいっぱいになる。ねぇ、そのごめんはなんのごめん?
ディナーよりも、綱吉を肌で感じていたい。綱吉の息を、感じていたい。体温を、声を、感じていたい。宝石よりも、綱吉が欲しい、いますぐあいたい。飲み込む言葉が多すぎて苦しくなって、涙が溢れそうになる。勘の鋭い綱吉だから、何でもかんでも見透かされてしまう。隠す必要はないよ、と綱吉は言うけど、言いたいことは言えばいいと、綱吉はあたしにいうけど。いいたくても、いえないんだよ。綱吉が見てるのは、あたしじゃないんだから。いっそ離婚してあたしと結婚してよ、って伝えられたらどんなに、楽なことだろう。そういえば綱吉たちは子供をつくらないのかな。作ってなんて、ほしくないけど。あたしと綱吉の間にも、子供はつくらないけど。つくれないけど。


「愛してるよ」


その愛してるはあたしに向って、言ってる言葉ですか?それとも、京子さん?頭から京子さんが離れてくれない。ずっとずっと、頭の中で、誰かも分からない京子さんが浮かんでくる。どんな声をしているんだろう、どんな髪の色を、どんな顔を、どんな身長を。あたしに似ているのかな。綱吉、綱吉、綱吉綱吉綱吉綱吉綱吉綱吉綱吉綱吉綱吉綱吉綱吉綱吉。綱吉、好き。


「あたしも、愛してる」
「・・泣くなよ」
「うん、泣いてないよ」
「アミは嘘つくの、下手だな」
「うん、そうだね」


綱吉、綱吉、あいしてるよ。ほんとうにほんとうに、あいしてるんだよ。



窓の外は紺色だった。



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