悪いことだとわかっているけど、だけどもう、離れられない。

離れたくない、離れたくない、傍にいたいよ、綱吉。







愛人、不倫、浮気。意味の違いがわからなくて、辞書を引いた。どれもこれも、全然違う意味を持っていた。綱吉、あたしはどれに当てはまるの?愛人?不倫相手?浮気相手?ねぇ、あたし綱吉のなんなのかな。綱吉のいったい、なんなのかな。教えてよ、不安だよ、綱吉がいないとき、不安で堪らなくなってしまう。あたしは綱吉の・・・。

浮気相手、なんだとおもう。綱吉には妻がいる。綱吉とあたしは、5歳差。若きボンゴレのボス。大きなマフィアのボス。マフィアのことはよくわからないけど、すごいことなんだろう。24歳でボスって、すごいのかな。でももっと前からボスしてたみたいだし、10代のころすごく修行していたみたいだ。あたしは、留学生。

あたしは留学生で、ここにきたらたまたま綱吉とであった。ほんとにたまたま、偶然。まだ道がぜんぜん分からないころに道を間違えてボンゴレ本部の敷地に入っちゃって、あやうく殺されそうなところを、綱吉に助けられたの。優しくて、かっこよくて、今思えば一目惚れ。綱吉があたしを見る目は、どこか悲しそうだった。あたしの胸は、締め付けられる。

なんでこんな関係になったかというと、綱吉から連絡先を聞かれたから。淡い下心を持って、あたしはパソコンのアドレスを教えた。綱吉が連絡先を聞いた理由は「日本のことを教えて」って。部下に聞けばいいことを、なんであたしに聞いたのかはさっぱりだった。そこからあたしと綱吉の一日一通にも満たないメール交換が始まったのだ。これはほんの、序章。だってこのときはまだ、こんな関係になるとはおもわなかった。


綱吉の奥さんは、ブロンド美人っていう、ほんとにすごい美人。イタリア人らしい。彼女は中小マフィアのボスの娘で、ボンゴレと同盟を結びたいからと、そんな理由からの結婚。いわば政略結婚。すきだったわけじゃないんだって。なんで結婚したの?って聞いたらなんでだろうって、悲しそうに笑ってた。その目は、遠くを見つめていた。国境越えて、どこまでも遠くを。


綱吉とこんな関係になるのに、時間なんてそう、かからなかった。あたしは日本語で話せる相手がいて嬉しかったから、すぐに心を開いた。(下心もあったしね)綱吉は暇になったら電話までくれるようになった。かかってくる時間はいつも遅いから、毎日おそくまで起きていた。そのうちデート、みたいなことするようになって(もちろん綱吉の部下つき)、あたしの家まで送ってくれるのは当たり前で。紳士な一面にさらにどきっとする。綱吉のさらさらの茶色い髪の毛が光をはじいてきらきらと光る。その瞬間、あたしは抱きしめてしまいたい衝動にかられる。

そんなこんなが続いたある日、綱吉から一件のメールが届いたんだ。 あいたい 目でわかる、辛そうな綱吉からのメッセージにあたしは心臓が痛くなった。そんなふうに言われて嬉しい、ってきもちと、どうしたの、って気持ちが入り混じって、胸が苦しくなった。指が震えて返事を打てない間、インターフォンが鳴った。どきっというかぎくっとして、玄関まで走った。相手なんて確認してなくても綱吉だって、そう確信していたからすぐにドアを開けた。そこにはやっぱり綱吉がいた。だけどいつも違う。部下がひとりもいない。綱吉が部下ひとりもつれていないのを見るのは初めてだった。


綱吉はうつむいていた。表情が見えない。あたしより背の高い綱吉。いつもは頼れる姿がどこか、頼れなそうだった。あたしが綱吉を凝視していると、綱吉はうつむいたまま「きょうこ」とあたしを呼んだ。キョウコ?あたし、キョウコじゃないよ。あたし、アミなのに。いつもアミって呼んでくれているのに、このときはなぜかあたしをきょうこって呼んだ。誰か分からない、あたしの知らない、きょうこさんを、綱吉は呼んだ。そのまま綱吉はあたしをぎゅうと、抱きしめた。いままで、抱きしめられたことなんてなかった。触れられたことなんて、なかった。驚きに体がこわばる。



「京子、京子、京子、」


綱吉はきょうこを連呼する。綱吉はきょうこさんがすきなんだ、ってすぐにわかった。



「ごめん京子ごめん」


どうにもできなくなったあたしは、綱吉が落ち着くように、とベッドへ連れて行った。綱吉はあたしを離そうとしなくて、身動きが取れなくて、転びそうになったりしたけど、なんとか連れて行けた。どうしたんですか、なんていう言葉は無意味だった。なにを言っても、何も言わない。その日はそのまま、眠りについた。




「アミ、ごめん」次の日の綱吉の第一声が、これだった。カッと頭に血が上る。ごめん?あたし、何のために、綱吉をここまで、あたし、あたし。頭がぐるぐると回る。ごめんなんて、聞きたくなかった。ありがとうって、聞きたかったのに。あたしは意識がふっとんだ。次に目が覚めたとき、綱吉が隣にいた。おかしなはなし。あたしをおいてボンゴレに戻ればよかったのにね。そうすればこんな関係にならずにすんだのに。

目が覚めても頭が回らない。「ごめんな」綱吉が繰り返し言うからまた心臓が痛くなって、おなかのあたりが気持ち悪くなってしまう。綱吉にイライラする。なんで謝るの、あたしを見る目はなんでそう、悲しそうなの寂ししそうなの。あたしが、きょうこさん?きょうこさんじゃないよ、あたしは、きょうこさんじゃない。

殴りつけるようなキスを、した。あたしが、綱吉に。綱吉は目を見開かせて、驚いて、あたしは走って、自分の部屋を出た、ときに腕をつかまれた。「まって」「すきだ」そんなことばが、聞きたいわけじゃない。きっと綱吉は、きょうこさんを見ているんだあたしじゃなくて。振り払えなくて、立ち止まった。「すきだ」もういちど言われたとき、理性なんてどこかに行ってしまた。自分がこんな尻の軽い、惚れっぽい女だとはおもわなかった。綱吉がほしくてたまらなかった。



振り向いたあたしに、甘いキスを落とした綱吉と、そのままベッドに落ちていった。カーテンの外は、明るかった。





二人の恋に赤だとかピンクは、似合わないわ。



深緑


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テーマ「人外ファンタジー」
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