会いたいあいたい あい たい。
気持ちが高鳴って、抑えようにも抑えられない。
体全身がむずむずする。
なんで日本とイタリアはこんなに離れているんだろうか。

何時間もジェット機に揺られ、俺の体力は限界に近づいていた。
あたりはもう真っ暗で、いい子ならもう眠る時間だ。
眠気なんてほとんどないけど、体がぴりぴりと痛くなってくる。
エコノミークラス症候群。
そんな言葉が頭をよぎった。

そりゃあ、そこらへんのジェット機よりいい作りだし、クッションもフカフカだし、エンジンだっていいのを使ってる。
だけど日本まで10時間前後かかる。
アミに会ったのだってさっきまで”今日”だったのに今ではもう”昨日”になってしまった。
操縦士をせかしても燃料との関係もあるわけだから、そんな早くつくわけもない。
結局ため息をついて、目を閉じた。


いつか京子に言われた。
「ツッくんは嘘つきだね」

俺は嘘をついているつもりはなかった。
京子は「それが優しい嘘だからなにも言えなくなっちゃうよ」
と続けた。


ごめんね、京子。嘘つきで。
一生守るなんて、壊したのは俺で。

ごめんね、京子。守れなくて。
一生そばにいるなんて、叶わなくて。

ごめんね、京子。
京子以外に大切な人を、作ってしまって。

でも俺、幸せになるから。
京子の分もずっとずっと、幸せになるから。


夢の中で京子が、笑った気がした。
その笑顔を見た俺は安心して、深い眠りについた。









「ボス、ジャッポーネです」

いつのまにか外は明るくなってきた。
いつのまにか朝になっている。
いつのまにかどんどんアミに近づいている。
いつのまにか時は過ぎていき、悲しみは思い出に変わる。



アミ、君を守るよ。
もう、泣かせたりしないよ。
君に 優しい嘘つき だといわれないように努力する。

だから、だから、俺のそばにいてください。



まだ寝ている人も多いかもしれない日曜の朝9時。
俺は昨日と同じ、アミの家の前にボーっとたっていた。
インターフォンを押せばいいのかもしれない。
だけど意気地なしの俺は、人差し指をボタンまで持っていくが、結局押せないでいる。
携帯で呼び出そうか、それともちゃんとインターフォンを鳴らそうか。

アミは俺のことを好きだといってくれたけど、もしまた 避けられてしまったら?



避けられたってかまわない。
力ずくでアミをモノにしようなんて思っちゃいない。
アミと一緒に幸せになりたい、ただそれだけ。

アミの未来に俺がいてほしいだけ。


二階の、道路に面している部屋のカーテンが、シャッと開いた。反射的に上を向く。


「アミ・・」


大切なひとが、いた。
彼女は一度、二度、伸びをして、大きなあくびをした。
玄関の前でボーっと突っ立っている俺に気づいたのか、カーテンは勢い良く閉まった。



「アミ!」

気づけば俺は大きな声を発していて、名前を呼んでいた。
ご近所さんの迷惑も考えずに、自分勝手に。





綱吉が、いた。
わたしの家のまえに、いた。
大きなあくびしてるの、見られてしまった。
こんな髪の毛ぼさぼさで、どうやって会いに行けばいいの。
きっと綱吉はまだ玄関の前で立っていて、あたしのこと、きっと待ってる。

どうしよう。


「アミ!」


ほら、名前呼ばれちゃった。
お母さんもお父さんも、まだ寝てるのに、起きちゃったらどうするのよう!
そんな場合じゃない。
昨日会ったばっかりの綱吉が、また日本にいる。
迎えに来てくれると、言った、綱吉が。

あたしを 迎えに来て くれている。



今すぐ駆け下りて、会いに行きたいけど、寝起きの顔だし、昨日いっぱい泣いたから顔がパンパンに腫れてしまっている。
どうしよう!
どんな顔をして会いに行けばいいの?

だめだ、また涙でてきそう。
一目見ただけなのに、なんでこんなに泣きたくなるんだろう。
愛しい人が近くにいるだけで、どうしてこんなに切なくなるんだろう。

いつまでもカーテンに隠れているわけには行かない。

あたしは静かに、だけど急いで、階段を駆け下りた。





「綱吉!」

パジャマだとか、そんなのもう関係ない。
顔腫れてるとか、そんなのもう今更。

会いたくて会いたくてしょうがない。ただそれだけ。


京子さんの影は、いまだにあたしの頭に残っているけど、やっぱり綱吉のこと忘れられない。
それにあたしの未来予想図には綱吉が必ずいる。
悲しい未来でも、幸せな未来でも、必ず綱吉がいる。
それでいい、それでいい。


京子さんの影が、一生頭のなかから消えなくてもいい。
やっぱり綱吉がすき。

心変わり早いよ、って言われても仕方がない。
だって綱吉が好きだから、仕方がない。
綱吉があたしを求めてくれている。

だから今すぐさらわれたって、かまわない。







だけど。



「アミ。迎えに来たんだ。」

綱吉の胸に飛び込む。そして、綱吉の首に回した両腕に力をこめる。

「苦しいよ、」
「俺も苦しい」

二人は笑って、あたしは泣きそうになった。
冷たい綱吉の耳が、あたしの頬に触れる。
綱吉の下がり始めた体温が、あたしによってあたたかくなりますように。
そんな願いをこめて思い切り抱きしめる。







「ありがとう綱吉。」




でもね、





「あたし、まだ」







「つよく なれていないんだ」




綱吉は約束どおりあたしを迎えに来てくれたけど、 あたしまだ 強くなってないんだ。だから綱吉のあとに ついていくことはできないです。





「ごめんね」



腕の力を抜き、綱吉の体から離れる。
あたしは再び、 家へと逃げ込んだ。


怖くて、綱吉の顔 見れなかった。




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