アミの住所、向かう俺の足。
並森、だなんて。







チャイムを鳴らす勇気すらない。

イタリアから飛び出して何時間、そして日本についてから何時間、そしてそして、このドアの前についてから何分たったのだろう。
とても短いよう感じた。本当は、とても長いのだろう。


会ったら何を話そうか。
謝ろうか、愛していると告げようか、そばにいて欲しい と、言おうか。
チャイムを鳴らして応対するのはきっとアミじゃない。


携帯をパカ、と開いて着信履歴を見ると、まだアミの履歴が残っていた。
それを見て、何故だか悲しくなる。
近くて、遠い。
電話をかけたら彼女は出るのだろうか?
真っ黒なスーツに真っ黒なネクタイなんて目立つなあ。

それにしても並森は何も変わっていない、あの日から。
あの日はまだ、京子がいた。だけどもうここには、京子はいない。
京子が死んでからお兄さんは修行に行くとマフィアを出てから帰ってきていない。
俺の、所為だ。


京子ごめんなさい、お兄さんごめんなさい。京子の両親ごめんなさい。
俺に力ないから、京子をころしてしまって、

でもこんな俺にも大切な人ができたんです。
京子に負けず劣らず大切な人なんです。
そのひとにそばにいて欲しいけど、肝心な勇気を持ち合わせていないんです、俺。
いつもそうなんです。
たいせつなものに たいせつといえない、
いつも後悔してるんです。
後悔したくないんです、だから伝えるだけ、俺の気持ちを伝えるだけ。
それだけでいいんです (ほんとうはそれだけじゃダメなんです)

なんども指をインターホンまで持っていくけど、押せなくて、きゅ と拳を握り締める。
なんて言えば良いんだ?『沢田と申しますがアミさんはいらっしゃるでしょうか?』


口に出して、練習する   さわだともうしますが、アミさんは・・・







「綱、吉?」


背後から、誰かの声がする。
昨日聞いた、懐かしい声、明日来る前に再び聞いた懐かしい声。


「アミ?」
「なんでいるの、こないでよ、なんで?どうして・・あたし、あた し」


買い物帰りなのだろうか、スーパーの袋ぶら下げて、アミはそこにいた。
どさ、と荷物を落とし、スーパーの中に入っていた卵が、ぐしゃ と潰れた。


「あいたく、なかったのに」


消え入りそうな声で、言われる。
そう言われるだろうと思っていたのに、面と向かって言われると心臓痛い。


「あいたく なかった のに」
「ごめんアミ。ごめん」
「謝らないで よ  あたしが まちがったことを したみたいじゃん」


その声はであったときから変わらず、アミの声の ままだ。
言われる言葉は辛辣な言葉なのに、俺はどこかうれしい。
またこの声を聞くことができるなんて、 嬉しいじゃないか。


「今日はアミに言いたいことがあってきたんだ」
「聞くことなんて ナイ よ」
「聞いて、 聞くだけ それだけでいいから」


それだけで良いなんて ウソ だ



「アミが好きだ。京子とは別物として、アミが好き だ」
「からかわないで よ  そんなの 嬉しくないんだから、あたし 知ってるんだから」
「俺の気持ちは 俺が一番分かってる」


それを言うと、アミは泣き出した。
さっきから一語一語止めて喋っていたのは、泣くことを我慢していたからだろう。


「ばか、ばかばかばかばか!いまさら、 なにを いまさら! もう遅いんだから!」


もう間に合わないことも 知ってる。
アミが俺に愛想つかしたのも 知ってる。
でも伝えられずにはいられなくて


「愛してるんだ」
「綱吉の ばかばか ばか」
「うん、馬鹿でごめんね、どうしようもなくて ごめんね」
「ばかばかばかばか!」
「でも すきなんだ それだけ。聞いてくれてありがとう」

もう 会わないから。会いにこないから。そう言うとずっと下を向いていた彼女は、俺のほうを向いた。

「綱吉は、いつもそう!自分だけ満足して! 自分だけ って いつも いつも いつも」
「アミ・・・」
「あたしだって いっぱいすきなのに、つなよしのこと いっぱい  愛してるのに」

そんなこと言われたら帰れなくなるじゃないか。
そんなこと言われたら、離れたくなくなるじゃないか。

「なのに消えてくれないの、 消えて くれないの     京子さん が」


もうなんといったらいいか わからない


「すきなのに だいすき なの に」


なんといったらいいか わからない
だから
だきしめたい


「もうこれが 最後だから」


ぎゅうと抱きしめると、コート越しの、アミの体温。
アミはぎゅうと俺のスーツ握り締め返した。アミの涙が俺の白いYシャツに沁み込む。
アミのお気に入りの芥子色のストールに俺の涙が沁み込んだら、一体何色になるんだろうか。









「最後なんて いやだよぅ」



ちいさなこえが きこえた

おれ どうしたらいいのかな?

このままじかんとまれば いいのに



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