「ただいま」

日が変わる一時間前に帰宅。

(・・・あれ?)

今日は 先に部屋にいるよー!豚汁作ったから一緒に食べよう。約束! と彼女からメールがあったから、明かりくらいついてると思ったんだけど、玄関も廊下もリビングも真っ暗。仕方なく玄関の明かりをつけ、それを頼りにリビングまで行き明かりをつける。


(ここにもいない)

リビングにも、リビングに面しているキッチンにも。脱衣場にも、風呂場にも、トイレにも、寝室にも。どこにもいない。彼女は一度たりとも約束を破ったことはない。

リビングには冷めた豚汁があった。つまり彼女はここにいたはず。なのに見当たらない。



(もしかしたら、)


寝室にある、大きなクローゼットの扉に手をかける。ここ以外にはいなかった、だがこんなところにいるはずがない、そんなことを考えながら、扉をあけた。



「あ、おかえりー」

普通の部屋と同じ大きさくらいのクローゼットの中には、彼女がいた。クローゼットの中では明かりがついていて、彼女はそこでDSや漫画を読み、暇を潰していたようだ。だがなぜクローゼット。DSや漫画ならどこでだってできるのに。


「なんでクローゼットにいるか、って?」
「よく俺の考えてることがわかるね」
「普通の人はクローゼットにいたりしない。だから疑問をもつことは当然なのです」
「それで、なんでこんなところに?」
「パパラッチがなかなか帰らなくてさ、あっちには幽が今の時間部屋にいないって情報いってるだろうし、なのに明かりつけたら中に人がいるって思われちゃうじゃん」

そしたら一大事だよ!と言われた。


まあ、一理あるかもしれないけど・・・






「それより、その右手にある風呂敷の中身ってなに?」
「あぁ、これ?次のドラマで着る衣装だよ」
「見たい見たい!」
「わかった」

そして中の衣装を出す。


「・・・学生服?」
「そう。次は高校生の役するんだ」
「グッジョブ監督!ってことでここでファッションショーしてよ!」
「え?」
「じゃあ、わたし部屋で待ってるからさ、着替えたら出てきてね!」


断る理由もないので承諾し、制服を手にとった。学ランではなくブレザー。学ランも一度でいいから着てみたいな。詰め襟は苦しそうだけど。背中をぐいぐい押され、クローゼットの中に入る。さっきまで彼女がいたから、彼女のかおりがした。

彼女の片手にはすでにデジカメが握られていたんだけど、着替えの最中に隠し撮りとかされないよね・・?

「着替えたよ」

クローゼットを開けると、そこには既にデジカメを構えた彼女が居て、俺が出てきたと同時にシャッターを押しまくる。


「ににに似合うね!」
「鼻息荒いけど」
「ごめんごめん、つい興奮して」
「もう一つ衣装あるんだけど」
「え、なになに、学ラン!?」
「これ」


ピラッと女子高生の制服を取り出し、見せる。彼女は動きをピタッと止め、息を止めたように全く動かない。



「もしかして・・わたしに着ろ、と?」
「そういうこと」
「営業スマイル(役者スマイル)を使うなああああ!第一、スカート短すぎるんだよ!パンツ丸見えじゃん!」
「ここには俺しかいないんだからパンツくらいどうってことないでしょ?」
「あるよ!この変態!」


いいから着替えてきて、と彼女の背中を押し、無理矢理クローゼットに閉じ込める。スカートが短いのが嫌なんじゃなくて、ただ単に女子高生の制服を身に纏うことが恥ずかしいんだろう。可愛いやつ。




「あのう幽さん。着替えたんですけど・・」と、顔だけをクローゼットから出し、言ってくる。

「こっちおいで」
「・・・」
「誰も足太いなんて言わないから」
「ヒドイ!幽にはデリカシーってものがないわけ!?」
「生憎持ち合わせていないんで」


観念したのか、そろり、そろりと彼女はクローゼットから出てきた。


「・・・」
「・・・」
「・・なんか言ってよ」
「似合うね、可愛いよ」
「表情があまり変わらないので本心かお世辞かわかりません」
「本心だよ」
「照れる」





もし、俺達が同じ高校で、同じ制服を着てたとしたら、きっとこんな感じなんだろう。二十歳を過ぎたいい大人が、まさかこうやってまた高校生になれるなんてね。それにしても女子高生のあみは可愛いな、すごく可愛い。女子高生だと言われても疑う余地がないくらいに似合ってる。



「じゃあ、今時の高校生がしている”恋人”をやってみようか」
「へっ?」
「今時の高校生は色々と早いみたいだからね」
「ちょ、どこ触って、」
「シー、」
「んぅぅ、うー!」







あみがそばにいるだけで、いつも俺は理性と戦わなくちゃいけないのに、今日は女子高生の彼女がそばにいる。理性の完全敗北。嫌がるそぶりを見せながら俺のキスに応えてくれる彼女は、やっぱり世界で一番、俺の好きな人。


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テーマ「人外ファンタジー」
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