今日はドラマの撮影で久々に昼間の街中を歩いた。目に映る、俺と彼女の背格好によく似た二人。誰がどう見ても恋人。


(そういえば、俺達ってデートっていうデートを、したことがない)










「今日はすぐ帰りますんで。お疲れ様でした」


「お疲れ様でしたー!」



ドラマの撮影、お疲れ様、自分。

いつものように車に乗り込み、発進させる。心のモヤモヤを抱えながら。



アイドルという職業柄、スキャンダルというものは避けて通りたい道。もし恋人がいたなんて報道されたらファンは一気に減るだろうし、もしかしたら仕事もあまりこなくなってしまうかもしれない。俳優という仕事は天職だと考えているから、それは困る。それにもし彼女のことが世間一般に知られてしまったら、彼女はどうなるだろう。パパラッチが連日、彼女を追いかけまわしたりしちゃうんじゃないだろうか。それも困る。一番困ることは、もしそうなってしまって、彼女と会えなくなってしまうことだ。それは、一番 嫌だ。

でも、デートっていうデートをしてみたい、というのは嘘じゃない。街を手をつないで歩いたことがない。一緒に買い物に行ったことがない。彼女へのプレゼントはだいたいが日用品で、アクセサリーなど、”女性”を連想されるものは送ったことがない。一回女性物を買いに行こうとしたら、連日リポーターに追いかけまわされ、さんざんな目にあった。あれはさすがに疲れた。通販で買えばいいとか考えたこともあるけど、実物を見ないことには善し悪しがわからない。だから通販は却下。よってプレゼントは日用品、雑貨。





(もしかしたら、あみもデートしたい とか 考えているのかもしれない)


だって彼女は若い女性、なんだし、デートに憧れたりするだろう。でも俺はそれを叶えてあげることができない。








「幽」
「!」

神出鬼没、とはまさにこのこと。


「いたんだ」
「ウン」


後部座席の足元。いつも彼女が隠れる特等席。隠れていたら大抵は見つけられる、が、今日は彼女がいることにまったくもって気がつかなかった。



「悩んでるの?」
「別に」
「嘘だー。だっていつもならアクセル踏んだらすぐわたしがいることに気がつくのに、今日はわたしが声をかけるまで全然気づいた様子なかったよ!」
「声かけるのは赤信号になってからにしてほしいな」
「それは謝る。ごめん」


彼女はひょい、と助手席に移り、シートベルトを締めた。なんとなく今日は会いたくなかった。自分の考えがまとまるまで、できれば会いたくなかった。だが、彼女は神出鬼没。いつやってくるかわからない。それが良いタイミングであったり、悪いタイミングであったりする。



「スタッフに気付かれなかった?」
「それは大丈夫。警戒しまくってたからね」
「ならいいんだけど」


俺の気持ちを察しているのか、今日の彼女は口数が少ない。いつもならずっと喋っているのに。それはもうひとり言のように。この空気が耐えられなくなった俺は、考えがまとまっていないけれど、言ってみることにした。





「あみは」
「うん?」
「俺とデートしたいって思ったことある?」
「んー、ないと言ったら嘘になるけど、しなくたって平気。だってわたしインドアだし」
「したくないわけじゃないんだね」
「別に大丈夫だよ。幽の仕事のことわかってるから」



真昼間、堂々と二人並んで歩けるようなことはできないと、彼女はわかっている。手をつないでショッピングできないってこと、わかってる。お洒落なバーで二人で飲むことも、高級そうなレストランで食事をすることも、外泊も、できないことを、わかっている。それはとてもありがたいことなんだけど、募る心のもやもや。




「・・なんかもやもやするんだけど」
「うーーん、それはたぶん、」
「たぶん?」
「不満だな!」
「ふまん?」
「幽はわたしとデートがしたい、でもデートができない、それでもやもやする、でしょ?」
「そういうことになるね」
「デートしたいのにできないことが、不満なんだよ!」
「あ、そういう意味ね(てっきり欲求不満の不満かと思った)」
「じゃあ、デートしようか」

いい穴場を知ってるんだよ、と フフン と彼女は得意げに笑った。


着いた先は港。もうすぐ時計の針は0を迎える。
彼女は車から降りて、何も言わずに堤防の方へと歩いた。真っ暗な海は不気味で、彼女がいなくなってしまうんじゃないか、という錯覚に陥る。急いで彼女のあとを追い、車を降りた。




「静かにね。見つかったらまずいから」

誰でも乗り越えられそうな柵を彼女は乗り越え、立ち入り禁止、と書かれた奥へ足を進めた。その後ろを追いかける。



「はい、手」


さすがに真っ暗で、そして、誰もいなかった。



「繋がないの?」
「繋ぐ」


普通は彼氏から、手を差し伸べるものなのだろうが、俺が差しのべられてしまった。






「ほら、あっちにも堤防があるんだよ。灯台のとこ」
「あっちのほうが明るいんだ」
「そ。こっちのほうが暗いの」







ここまで真っ暗だと、本当に不気味で、彼女を見失ってしまいそうで、抱きしめた。



「どうしたの、幽」
「海の風って意外と寒いから。」
「あー確かに、冷たいよね」
「だから温めてあげる」
「あはは、ありがとう」


こんなに暗いと、フラッシュたいても、綺麗に写真撮れないね と彼女は言い、今日はカメラを封印させた。




「キスしたい」
「・・・」
「キスしたい」
「二回も言わなくていいよ!」
「していい?」
「・・・やだ」
「暗いから顔見えないし、大丈夫」
「意味がわからない」
「あみの可愛い顔が見れないのは残念だけど」
「〜〜〜〜っすればいいでしょすれば!」






きっと彼女は今、 真っ赤のはずだ。







「俺とキスするの、嫌い?」
「き、嫌いじゃないけど・・」
「けど?」
「なんでもない、目つむるよ、ほら、するなら今だよ今!」
「色気もへったくれもないね」
「じゃあ目、あけるよ」
「それでもいいよ」





どうせ真っ暗なんだから、俺の顔だって見えないでしょ?









真夜中初デート


(あみのくちびる、あつ)
(それはお互いさまでしょ。幽の唇だって熱かった)
(じゃあ確かめるためにもう一回)
(・・・・幽のキス魔)
(うん)
(認めるのか)
(認めるからもう一回)


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