「ただいま」

玄関のすぐ横のスイッチを押し、部屋を明るくする。明かりがついてなかったってことは、今日彼女は部屋に来ていないようだ。




リビングから聞こえる誰かの話し声。もしかして泥棒?
ガチャ、といつものようにリビングのドアを開けると、そこには部屋を真っ暗にしてテレビを見ている彼女がいた。(明かりくらいつけたらいいのに)


「おかえりー」

俺の方へ振り向き、満面の笑みで言った彼女に、もう一度「ただいま」と言った。


「・・・あ」
「気づいた?そう、幽が出てたドラマ見てるの」
「そうなんだ」
「テレビに出てる幽のこと知らないから、知ろうと思って」


お腹すいてるでしょ?キッチンにハヤシライスあるからあっためて食べてよ と彼女は言い、またテレビに集中した。電気つけると怒りだしそうだから、暗い中で食事をとることに決めた。鍋にはハヤシライス。彼女は変態だけど料理はうまく、俺の胃袋をがっしり掴んでいる。そのうち鍋がくつくつしてきたので深めの皿にごはんをよそい、ハヤシライスを盛りつけた。いい香り。



「どう?美味しい?」
「うん、美味しいよ」
「それなら良かった」


相変わらずテレビを見ていて、俺には背中を向けたまま。彼女が見ているのは、俺が出演したドラマはラブロマンス物で、普段聞くことのない甘いセリフを囁き合っている。


「幽ってこんな顔もするんだね」
「?」
「いや、悲しそうな顔もするんだなあと思って」
「俳優だから」
「わたしは見たことないなあ、」


それは俺が鉄仮面と呼ばれているからなのか、実際に鉄仮面だからなのか。



「だってわたしと居るときの幽はいっつもニコニコしてるもん」
「・・・してないよ」


してるよー。と今度は、俺の方へ向き直って言った。


「ほら、やっぱり笑ってる」


笑ってるつもりはないんだけどな、でも、ここにあみがいて嬉しいって思ってるから、もしかしたら笑っているのかもしれない。







「いやー面白かった」
「一日で全部見たの?」
「うん。幽が仕事行ったらすぐここに来てずーっと見てた」
「すごいね」
「三つ巴で、その相手が幽ともう一人の人なら、わたしは幽を選ぶよ」


あの女優さんは、違ったけど・・ と言った。
普段テレビを見る習慣のない彼女は女優さんの名前も、俳優さんの名前も知らないらしい。(出会ったころは俺が有名人だということも知らなかった)



「幽の何がダメなのかなー。あの役だってさー最初から幽がずっと好きだったんじゃん」
「強く好き合ってるもの同士を引き裂こうと裏で色々試行錯誤、張り巡らせたって、結局は好き合ってるもの同士を引き裂いたりできないってことだよ。そこまでして幸せをもぎ取っても、そのうちまた彼女は彼のところへ行くだろう」
「わからんわからん!」
「要するに、現実の俺とテレビの中の俺は、別物ってこと」
「それはわかるよ」


ハヤシライスを食べ終え、テレビの前で体育座りをしている彼女のもとへと行く、ドラマはエンディングのスタッフロールと共に、ドラマに合った主題歌が流れている。ドラマが終わったにも関わらず、じーっと画面を見続ける彼女を後ろから抱きしめるようにして座る。




「あ、幽の名前発見!羽島幽平!」
「それ探すためにじっと見てたの?」
「うん」

俺にもたれかかるようにして体重をかけてきたので、支えきれなくなった俺は床へごろん、と体を倒した。もちろん、彼女も道連れ。


「ああ、さすがに疲れたな」
「お疲れ」
「お風呂入りたいな」
「一緒に入る?」
「入らない。盗撮は隠れてするものですよ、幽さん」
「盗撮はしないで」
「いつでもシャッターチャンスを狙っているのであります!」


一緒に風呂入っちゃえば、カメラは濡れるから持ち込みできないし、もし持ち込めたとしても、シャッターチャンス狙えないくらいずっとあみを構って遊ぶから、そんな暇を与えない。






「よし、」
「うわああああ!」


通称お姫様だっこ。
彼女を抱えて向かうは風呂場。



「なんで!?幽はひょろひょろなのに、なんでわたしを持ち上げられるの!?」
「普段鍛えてるからかな」
「・・・っ降ろして!降ろせ―!!」


じたばた抵抗する彼女にキスをすると ピタ と抵抗をやめた。おとなしくなった彼女を抱えて歩いていると「ニンマリ笑わないでよ、幽のエッチ」と小さく言われた。俺の入浴シーンを盗撮しようとする彼女に言われたくない。






鉄仮面の満面の笑み

(それは彼女と二人きりの時限定です)


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