気づけば桜の花が散っていて、ああ、今年も花見ができなかったなと、窓の外を見つめていた。


「幽?どうしたの?」
「いや、桜の花が散ったなと思って」
「そう言えばそうだね」
「あみは花見した?」
「してないよー」
「してないの?」
「ウン」
「一緒だね」
「本当?」
「毎年桜が咲くと今年は花見に行くぞって意気込むのに、気づいたら花が散ってるんだ」
「幽、ぼーっとしすぎだよ」
「そうかな?」
「そうだよ」


何がおかしいのかわからないけどあみはふふっと笑って、俺の横に腰掛けた。ソファが少し沈む。手にはコーヒーカップ。俺の分は?と問いかける前に、彼女はそのコーヒーカップを俺に差し出した。じゃあ逆に、あみの分は?そう問いかける前に彼女が「わたしさっき飲んじゃった」と言う。この子はエスパーか何かなんじゃないのか。どうして俺の考えてることが手に取るように分かるんだろう。マグカップを受け取り、ふーと息をかける。こんなことしたって簡単に冷めるわけはないのに、どうしてふーっとするんだろう。


「桜の次はひまわりだね」
「そうだね。あと百合とか」
「百合は良い香りするよね」
「そうだね」
「ひまわりの種って食べられるんだよ、知ってた?」
「知らなかった」
「今度食べてみる?」
「夏が終わったらね」
「じゃあまだまだ先だね」
「うん。あみの腕に期待してるよ」
「あはは、ハードル上げないでほしいなぁ」


小さい約束を積み重ねていることに、あみは気づいているだろうか。毎日で着ていく小さな小さな約束。どれくらいの高さになっているだろうか。今だって、約束をしたんだよ、ねぇ、気づいてる?
もしかしたら忘れてしまった小さな約束もあるかもしれない。ノートに書きださないと全部やりきれないかもしれない。でも約束はたくさんあるほうがいい。約束が増えるたびに、あみと一緒にいる時間が増えていく。だからいい。それがいい。約束のために一緒にいるわけじゃない。約束を果たせて、嬉しい顔をするあみを見ていたいんだ、俺が。


「桜が散ったら、春じゃなくなる?」
「暑くなったら夏じゃない?」
「じゃあ、まだ春 だよね」
「そうだね」
「新緑の季節か」
「それって夏?」
「春じゃない?」


何がおかしいかわからないけど、こみあげる笑いに耐えられず、二人して吹き出す。どうしてかな、あみといると、本当の自分が分からなくなるんだ。こんなに笑える自分がいるなんて、知らなかったんだ。


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テーマ「人外ファンタジー」
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