大きな大きなケーキを作りました。たぶん二人じゃ食べきれない。だからと言ってここに誰かを呼ぶわけにもいかないし・・・。ああ、早く幽帰ってこないかな。たくさんのごちそうと、この大きなケーキを見たらどんな顔するんだろう。わたしはこれと言ってセンス良くないし、料理くらいしか得意なものはないから、こんなことしかできないけれど、喜んでくれたらいいな。あともう少しで、幽が帰ってくる。生クリームがたっぷり乗ったショートケーキは冷蔵庫に入れ、わたしはリビングへ向かった。テーブルの上には幽の大好物ばかりが並んでいる。好きなものばかりを並べたわけだから和洋中まぜこぜなんだけどね・・・。それでも美味しそうだからいいじゃないか!

しばらくするとインターフォンが鳴り、わたしはパタパタとスリッパを鳴らし、玄関まで行く。カチャリと鍵が回り、わたしが待っていた人が扉を開けた。「おかえり」「ただいま」ほっとしたように幽が言うので、わたしはくすくすと笑った。わたしがここにいることに、安堵感を覚えている幽が愛しくてたまらないのだ。



「わ、すごいごちそう」
「でしょ」
「どうしたの?」
「どうしたの、って、今日幽の誕生日じゃん!」
「そうだけど・・知ってたんだ」
「当たり前だよ」

どんな風に思われてたんだわたし・・。椅子を引いて幽を座らせると、嬉しそうに目をきらきらさせた。テーブルに並んでいるのはどれもこれも幽の好物ばかりだからだろう。さて、よく冷えたシャンパンで乾杯をしよう。キッチンに向かい、冷蔵庫からシャンパンを取り出す。入れるところがなかったから、寝かせて入れておいた。栓を抜くときに一杯あふれないといいけど・・・。

ガシャン

「え」

バタン、と冷蔵庫の扉を閉めたつもりでいた。冷蔵庫はきちんと閉まるはずだったのに。ガシャンと音の鳴った方を向くと、そこには無残な姿になった、大きな大きなショートケーキ。


「・・・・・・・・」

途方に暮れるわたし。
ああ、あんなに頑張って作ったのに。スポンジだって、これでもかってくらいふあふあで、生クリームも綺麗に塗れて、イチゴだって、ハート型にして、チョコペンで 誕生日おめでとう って書いたのに。



「あみ?どうした・・・・の」

そのばにへたりこんでしまったわたしの元へきた幽は、冷蔵庫から落ちたケーキを見つけ、すべてを察したようだった。しゃがんでわたしの頭を抱き、大丈夫と言った。


ああ、あんなに頑張って作ったのに。味見はできなかったけど、絶対美味しかったはずなのに。ケーキ屋さんで買うケーキみたいな出来だったはずなのに。食後に食べるはずだったのに。

幽は立ち上がり、そのケーキのところへ行き、両手で持ち上げ、パクンとわたしに食べて見せた。


「ちょ、幽!それ落ちたから、汚い・・・」
「そんなことないよ。いつもあみが掃除してくれてたから」

嫌がるなら、床に触れてないところだけでも食べる

幽はそう言って、口元に着いた生クリームを舐めた。 美味しい と幽の口が動いて、わたしは涙が出た。



なんてひと。
わたしは一生かかっても幽には勝てない。
それでもいいや。幽になら負けたって全然構わない。



「幽、誕生日おめでとう」
「うん。ありがとう」


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